006_修理屋さんではないけれど
隊長が一対一でゴブリン一機を抑え、沼にハマっていたのはベテランさんが撃破。
これで一安心かと思えそうですが、木々の向こうからの駆動音はすぐそこまで迫っています。それが合流しちゃったら……。
こちらに残された光子バズーカは、残り一丁。どうしようかと頭を抱える私です。
「VB」
と、そこでベテランさんが私を呼びます。逆転の秘策でもあるのでしょうか?
急いで駆け寄ると、撃ったばかりの光子バズーカをほいよと渡されました。
「リロード、頼む」
「はい?」
「はいぃ!?」
そして、さらっと無茶を言い渡されました。私以上に隣のアニーラが頓狂な声を上げています。
ここで簡単に、光子バズーカについて説明しておきます。
魔法ありきの科学技術「魔術」が発達し、軍事方面に特化したのは前述した通り。特に複雑な呪文詠唱を代替え処理する「スペルカートリッジ」の登場で、それまで特別な血筋や素質を必要とした魔法は急速に一般化しました。
光子バズーカは、複数の人間が揃って成立する「
ただしカートリッジには一発分しか装填できず、砲身そのものも連続使用に耐えられません。再装填も一応は可能ですが、基地で整備する必要があります。
……ベテランさんは、それをこの場で私にしろと言うのです。え、無理では?
「お前ならできる」
でも断言されました。
ベテランさんっていい男なんですけど、体は大きいわ表情は暗いは寡黙だわで、冗談を言うタイプではありません。間違いなく本気で言っているのでしょう! アホか!?
「い、いやいやいや! 無理っすよ!!」
「お前は『天才』と聞いている。頼むぞ」
「期待しないでくだせえよぅ!!」
他人の無責任な期待とかヘドが出るんすよ!! 私を頼るな! 尽くしてはもらいたいけど、他人に尽くすのは大っ嫌いです!!
「死にたくないなら体を張れ」
んが! ベテランさんはそう言い残し、小隊長の助太刀に行ってしまいました。
ゴブリンを真後ろから蹴り飛ばすベテランさんの姿は勇猛で頼もしい。ですが、一方的に用件だけ押し付けるのは色男といえども許せません。
腹立たしいので、例えリロードが成功しても撃たせてやりません。私が手ずからゴブリンを撃墜してやりましょう! ぬはははは!
「VB! やれるの!?」
「うん?」
私の手元を覗き込んだアニーラが、とても不安そうにしています。
これはいけません。なので、心配するなとワイルドに笑い返しました。
「やるしかねぇっしょ! やったりますよ!!」
「……うん」
効果があったかは分かりませんが、アニーラは慣れない手付きながらもライフルを構えました。他の部隊員も同様、私を守ってくれるつもりでしょう。
でもアニーラ、銃を持つ手も足も震えていますね。そりゃ本業は衛生兵ですし、むちゃせんでも良かですよ?
「ううん! 私も……やるよ! VBを守る!」
振り絞った勇気に、ちょっぴりドキッとさせられました。やだ、この子ってば凛々しいですね。
さて。ベテランさんはともかく、アニーラの為にならもろ肌……じゃなくて、一肌脱ぐのも吝かではありません。
スペルカートリッジは術式と一緒に液化エーテルが燃料として充填され、この燃料でカートリッジ内の術式を起動します。それで生み出した魔法同士を、さらに砲身内部で合成する……という二段階のプロセスを踏むのです。
こうしてエーテル燃料を直接爆発させるより遥かに莫大なエネルギーを生成可能な訳ですが……私はこれから、この燃料を自分の魔力で補います。カートリッジには術式が残っているので、理論上はこれで再利用が可能となります。
ただし、先程も言いましたがリロードには本来ちゃんとした設備が必要です。一発撃つだけで砲身が劣化するので、内部パーツを換装せにゃならんのです。
「なので、ただエーテルを補給するだけじゃあ足らんのです。砲身部分にエンチャントが必要、魔力合成を阻害しないよう注意しつつ構造を強化するのです」
「だ、誰と話してるの、VB?」
「静かに。精神統一の一環なのです」
やるべきことを口に出すのは作業の第一歩なのです。
ちなみに、近づいていた恐ろしげな音の正体はやっぱり増援のゴブリンでした。それも二機!
味方がやられたのを察したのか隊長とベテランさんに向かったので、私が背後から挽き肉にされるのは免れました。
ですが、二対一でも大苦戦だったのが二対三になったわけです。戦局は大きく敵に傾きます。
如何に二人が巨大な弾丸を防ぎ、ものすごいスピードで敵を撹乱する敏捷性を発揮しようとも、装甲に有効打が与えられないのであればジリ貧となります。
小隊長の刀捌きは鉄ぐらいであれば寸断できますし、ベテランさんもジャンプしてゴブリンをぶん殴るとか化け物じみたアクションをしています。あんな真似ができる人間(種族問わず)など、連合どころか大陸中でどれだけいるのでしょうか。
しかし、それでも装甲を貫くには足りないのでした。
今はまだ互角のように思えます。ですが体力だって無限ではありません。いずれじわじわと追い詰められてしまうでしょう。
「噂じゃあ連合も独自にガンマシンの開発に励んでるそうですが、実戦投入まで戦局が持つかも怪しいもんです」
「VB?」
「歩兵が来るやもしれねーです。ちゃちゃっと終わらせんで、そんまで警戒お
「えっ!? う、うん!」
アニーラと、まだ生き残ってる部隊の仲間が周囲を警戒してくれています。隊長の側にいるみんなについては分かりません。光子バズーカのもう一丁はあっちなのですが、早いところ撃ってくれないでしょうか。
流れ弾も飛んできますし、さっさと仕事を終わらせましょう。
「エーテルの再装填は完了、けどコンデンサーがオシャカとは。砲身内部の破壊が予想より少ないのに、肝心なところがダメダメですねぇド畜生が」
「そ、それって直せるの!?」
「絶対に無理です」
あ、コンデンサーっていうのはカートリッジが詠唱した魔法同士を合成する大事な部分です。どうやら一発撃つとこいつが破損するので連射が効かないようですね。
ちなみにレーザー砲なので銃口がレンズ状になっていますが、一番脆そうなのに特別傷もなく使用にも問題ありません。外装部分は思っていたよりは頑丈でした。
「仕方ない。コンデンサーの代わりは私がやりますか。けど
試そうなんて考えたこともありません。四重魔術……つまり四人の魔術師が力を合わせて発動させる魔術を独りで行うのですから。
本来なら四人の人間が一致団結し、訓練に訓練を重ね、万全を期して挑戦しても五分五分という偉業。仮に成功したとして、私は無事でいられるでしょうか。そもそも方法は?
どうしたものかと悩んでいた、その時です。
「!! VB、駄目ぇ!!」
「へぁ?」
アニーラが唐突に叫ぶので顔を上げたら、いきなり頭から水をぶっ掛けられました!! 何するんです、酷いじゃないですか!!
……いえ、水っていうには妙に温かいしヌルヌルします。なにより咽るような鉄の匂いが……して……?
「…………あ、アーニラ?」
顔を上げた私に背中を向け、両手を広げて立っていたのは……アーニラだったんだと思います。
ただ私が知っているアーニラより頭一つ分だけ背が低いんです。
ゆっくりとこちらへ傾いてくるアーニラの背中を支えたくて、手を伸ばそうと試みます。ですが、水の中にでもいるように、私の動きは鈍いのです。
倒れた彼女からは、まるでバケツをひっくり返したような水音がして……私の足元に、赤黒く濁った液体が散乱しました。
それは彼女の頸から溢れ出たもので……彼女の綺麗だった髪は跡形もなくって……――。
あれ?
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