第四章 脱落者
退出制度のことか。
ここに入る前の説明で、そんな条件もあると聞いていた。詳細は教えてもらえなかったが、ある程度努力しないと生き残れないルールを作ってあると。
その時はテレビだし、そんなものもあるだろうと、気楽に構えていたのだが――。
チラリと周囲を見ると、皆が固唾を呑んでモニターを見つめていた。事前にそのルール内容を知っていた者はどうやらいないらしい。みんな栞と似たり寄ったりの説明を受けたようだ。
「まずルール①は鼎ハウスに入れるのは一度限り! ルール②は退出、脱落はいつでも可能ということでした! みなさん覚えてらっしゃいますかー?」
テーブル上のノートパソコンには、
『あくしろよ』『はよ』『もったいぶんなカス』『だららららら(ドラムロール)』
といったコメントが表示されている。
「はいっ! そしてそしてルールその③!
一週間に一度あるPOT配信サイトの投票制度。その投票制度で、最下位を二週連続で取った方には強制退出して頂きます!」
「強制……」
「……退出?」
ズームアップされる司会者の満面の笑み。
「ちょっとなにそれ! どういうこと! 聞いてない!」
「アリサさんはこっちが説明したのに話ちゃんと聞いてなかったんじゃないんですかねー」
「はあ!?」
「あ、僕じゃないですー。スタッフさんがー」
アリサが興奮してテーブルを叩く。その音にびくっとする知菜。薫子だけは何を考えているのかぽけっとしていた。が、その顔を見て冷静になれた。
強制退出は問題じゃない。
そういう制度があるらしいことは事前に聞いていた通りだ。アリサは本当に話を真面目に聞いてなかっただけだろう。それか覚えていないだけか。
そう簡単にワケアリな自分たちがデビュー出来るわけでもないだろうとも栞は考えていた。
「はい。その投票制度ってなんすか?」
轍が挙手して質問した。
そう。その方法が問題だ。なんだ。投票制度って。自分たちで退出に値する候補生を一人選んで投票しろとかそういうことだろうか。今以上にギスギスするなんてのは勘弁して欲しい。
「はい。あなた達には一ヶ月……約四週間、鼎ハウスで過ごし、デビューを目指して頂くというのは事前に伝えた通りですね? その一週間の終わり、つまり日曜日に視聴者投票の結果を毎週このお昼の十二時に発表致します。投票によって順位付けをし、最下位になった方にはその時点で鼎ハウスを出て行ってもらいます。デビューの夢も無くなるというわけです」
どうやら自分たちで選ぶわけじゃなく、視聴者が選ぶらしい。それならばいい。胸を撫で下ろす。
「救済の道も断たれるというわけですね!」
関田がわざわざ煽るような相槌をした。
すると案の定アリサが反応する。
ガンっ! と下からテーブルに蹴りを入れた。
「ちょっと」
咎めるような由利穂の声が響く。
アリサは何事も無かったかのように無視を決め込んだ。鼎ハウスに来てからここまで二人の関係は出会った時のままだ。
「投票については既にPOTホームページで金曜の午前0時から開始しております。締め切りは日曜の午前0時となっており、そこから番組スタッフが集計作業に入ります。
投票は専用フォームから。一回の投票に付き五百円が掛かりますのでご容赦下さい。一アカウントに付き、一回の投票となっております」
「それでは、記念すべき第一回目の投票結果を発表していきたいと思います」
南野の言葉を引き継ぐようにして関田が言い、最後に言葉を引き継いだのは強くマイクを握りしめた宇津美アナウンサーだった。
「第一位、神瀬由利穂さん。得点は九十点。
第二位、染夜愛さん。得点は八十五点。
第三位、新垣千里さん。得点は八十点。
第四位、本庄栞さん、得点は六十二点。
第五位、新垣知菜さん、得点は五十五点。
第六位、葦玉轍さん、得点は五十四点。
第七位、悠木薫子さん、得点は四十点。
そして、第八位、アリサさん、得点は三十点。
以上、第一回目の投票結果になります」
アリサが乱暴に立ち上がって部屋を出て行った。扉を閉める大きな音が響く。
「うん?」
と、轍がしきりに首を捻っていた。
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