第426話 ヌルヴィス対全身ローブ ②

「速っ!?」


全身ローブが敏捷のステータスを持っていると予想していたが、その数値は俺の予想以上だった。

感覚的には気付いたら全身ローブが目の前まで来ていたようだった。だから俺は大鎌を盾のように前に出すしかできることは無かった。


「それには当たらないよ」


「かっほ…!」


全身ローブは俺の大鎌を回り込んで避けると、脇腹を殴ってきた。咄嗟に横に飛んで衝撃を少し弱める。


「…でも思ってたよりも!」


今の攻撃でダメージは入っているが、思っていたよりも強くはない。これならラウレーナやルシエルの方が強いくらいだ。

威力が思っていたよりも弱かった理由は全身ローブに目線を移してすぐに把握できた。


全身ローブは足と腕の先を無くしていた。【防御】がないせいで自分の高速移動と攻撃に身体が付いてこないのだ。足が無くて踏ん張れず、柔らかい拳で殴ったから思っていたよりも威力が弱かったのか。


「…………」


しかし、それを察すと同時に恐怖した。今のは直接攻撃だったからこの程度だが、魔法を使われていたらどうなっていた?Sランクにすらダメージを与える攻撃に俺が耐えられるはずがない。


「凍てつけ!アイスニードル!」


俺は即座に氷魔法を放つ。この魔法で俺の立っている場所以外の舞台全域に氷の棘が隙間なく生えた。当然、全身ローブは串刺しになる。


「そんなに近寄って欲しくない?そういう態度されると逆に近寄りたくなるって知らない?」


全身ローブはそう言いながら、身体を壊しながら棘を無理やり抜ける。そして、その先にある棘は拳や足を破壊しながら壊して向かってくる。

俺はとりあえず想像以上に今の魔法で魔力を使ったため、魔力ポーションを飲む。


「シールド!」


「あっ…」


そして、全身ローブが近くに来たら、空中に足場を使って全身ローブから離れる。着地する際には氷の棘を大鎌で切断した。


「……ファイアボール」


全身ローブは移動するのが面倒になったのか、巨大な火魔法で棘を一掃する。余った足場を盾にすることで何とか魔法によるダメージは防げた。


「次は逃がさない」


(ここだ!)


障害物が無くなり、一直線で全身ローブが向かってくる。やるなら今しかない。


「闇れ」


「っ!」


俺はストックしていた魔法を使った。

俺がストックしていたのはダークバーンだ。その範囲は舞台全体に及ぶため、全身ローブに逃げ場ない。

これはSランクがやろうとしていたように全身を消し飛ばす作戦の手段を変えたものだ。




「はあ……はあ…」


再生をさせる余裕を与えないように、それなりの威力にしていたため、俺にもダメージが入った。

致命傷にはなっていないが、全身が痛む。

だが、そのおかげで舞台上には全身ローブが着ていたローブの破片しか残っていない。


『し、し…試合』


相手が死亡したという結果に終わったが、試合終了には変わりない。だから試合終了のアナウンスを運営がかけようとした時だった。


「う、嘘…だろ……」


ローブの破片が少し伸びたと思ったら、そこから全身ローブの顔ができ、全身が数秒で本通り再生した。ご丁寧にローブも含めてだ。

あまりの光景に俺は動くことができなかった。


「死ぬかと思った」


「………」


全身ローブは少し機嫌が悪そうにそう言ってくるが、俺はそれどころではない。


「その反応を見るに本気で殺そうと思ってた?なのに失敗するってことはやっぱり今までと比べて技術不足過ぎるね」


「………」


全身ローブが何か言っているが、その内容が頭に入ってこない。全身を吹き飛ばされても再生するやつをどうやって倒せばいいんだよ…。

望みがありそうな闇付与した大鎌は全身ローブの【敏捷】を前に活用しきれない。


「こ、降さ…がほっ…」


「言わせない」


目の前の存在が自分の常識、理の外にいることが恐ろしく、咄嗟に降参しようとした。

だが、それは高速移動してきた全身ローブに首を掴まれて封じられた。


「ふんっ」


「ごっぽ…」


そのまま俺は舞台に叩き付けられた。全身ローブのさっきの拳での攻撃とは違い、硬い舞台に叩きつけられたことで大ダメージが入った。


「1回ここで調教した方がいいね。記憶が無いとはいえ、私の事や自分の事を理解して無さすぎる。見てられない」


「ぐぅ……」


依然として首を絞められたままの俺は全身ローブの言葉を聞いている余裕が無い。


(死ぬ…殺される!)


意識が遠のく俺の脳内ではこの考えだけが支配していた。今までも命の危険は何度かあった。

だが、今回のように相手がどんな生物か、そもそも生物かどうかすら分からないことは無かった。


(このままじゃ死ぬ!)


「あっ…これは不味い」


何とかしないと思うあまり、体がほぼ勝ってに動いた。



「……その力は思い出してとは言ってない」


急いで俺から離れた全身ローブはさっきまで俺の首を掴んでいた黒く燃ええている手を切り落とした。


「はあ……はあ……」


全身ローブが慌てて逃げたのを見て、やっと冷静さを取り戻した俺は立ち上がる。

その際、闇魔装をしていたことに気付くが、それだけでなく、闇魔装に闇付与もしていた。

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