第424話 ヌルヴィスの準決勝 ②

「今のは……魔法か?」


「………」


観客相手だったら魔導具や大鎌の力など誤魔化す言い訳はいくらでも思い付く。

だが、目の前で詠唱を聞かれたこの男には隠すのは難しい…いや、無理かもしれない。


「よし」


ここで俺は難しく考えるのをやめることにした。剛剣にバレてしまったのに負けるのが1番ダメだ。だから観客にバレない程度で全力を出して勝ちに行く。

俺は自由に生きるために冒険者になったのだ。ここで我慢していたら冒険者になった意味がないしな。


「轟き、凍てつけ」


「っ!?」


俺が詠唱をしながら走り出すと、剛剣は思わず1歩後ろに下がってしまうほど狼狽えていた。


「サンダーアイスっ!」


「ぐっ…」


詠唱しながら振った大鎌を剛剣は仰け反りながら受ける。その隙に俺は剛剣の腹に左手を近付ける。


「ランス」


「がっは…」


剛剣は防具の上からだが、まともに魔法を食らったため、腹に穴が空いて吹っ飛んだ。観客には隠れるように魔法を使ったし、魔法もすぐに消したから余程目が良くない限りはバレはしないだろう。


「ふんっ!」


追撃を掛けようとしたが、剛剣は舞台に大剣を刺し、片膝を付くことで勢いを止めた。


「かふっ…油断して悪かったな」


剛剣は血を吐きながらそう言うと、大剣を抜いて立ち上がる。


「お前がどんな手を使っているのかなんて関係ない。お前はルールの範囲で戦ってるのはわかる。だったら後はどうでもいいだろ。つまらんことを気にしてたぜ」


「そうかい」


正直、もっと戸惑って欲しかったが、さすがはベテランのAランク冒険者だ。即座に冷静さを取り戻した。


「行くぜっ!」


剛剣は俺に大剣を構えて向かってきた。

魔法のダメージはかなり入っているはずだが、剛剣は回復ポーションは使わなかった。

この大会は何でもありのため、ポーション類も自由に使っていい。だが、そんなのを使っている隙は基本的に無いため、使われることは少ない。

現に俺も強く蹴られたが、使っていないしな。


「らあっ!」


「おら!」


大剣と大鎌がぶつかり合い、そこから再び接近戦となった。

さっきと違うのは剛剣が魔法の存在を知り、腹に穴が空いていることだ。魔法の警戒とダメージがあることで攻撃の回数が落ちている。そのおかげで魔法無しでも接近戦で張り合うことが出来ている。


「サイズ!」


「おおっ!?」


威力の高い魔力を使う魔法に気が逸れているため、俺は闘力での魔法を放つ。それは剛剣の脇腹を数cmほど深く裂く。



「凍てつけ!」


「っ!」


それからまたしばらく経ち、俺が詠唱を始めたため、剛剣は防御に徹し、魔法に対応できるようにした。

だが、ちょっと警戒し過ぎじゃないか?


「アイスフィールド!」


「うぉっ…!」


俺の魔法は剛剣の足元の地面を凍らせた。直接ダメージを与えてくる魔法を警戒していた剛剣は対応できず、滑ってしまう。

俺は純粋な魔法職では無いからこういう搦め手も使うんだぞ。


「らあっ!」


「うっ…!」


滑って転びそうになった剛剣に俺は上から大鎌を叩き付ける。大鎌自体は大剣で防いだが、剛剣はそのまま舞台に叩き付けられる。


「ぐぅ……!!」


「おぉ……!!」


そのまま力比べが始まった。

純粋な力では負けている俺だが、剛剣が寝転んでいて、魔法によりダメージを受けていることもあって競り合っていた。


「轟け!」


「っ?!」


そんな状態だが、俺は容赦なく詠唱を始める。剛剣はギョッとしながらも、何とかこの状況を打開させようと逃げ出そうとする。

だが、大鎌を巧みに使って剛剣を下から抜け出させない。


「サンダーボール!」


「がっ……」


大鎌から放った雷の球は剛剣の顔面に当たった。それにより、剛剣の力が抜け、俺の大鎌が剛剣の首元まで迫った。


「ご、ごうざんだ……」


剛剣は体、特に顔面が痺れている中で、降参を宣言した。


『し、試合終了!!』


「ふぅ…」


こうして俺は何とか準決勝も勝つことができた。ただ、今回は普通に魔法を使ってしまった。

俺は若干の後悔をしながら歓声の中で退場していく。



「敗者の俺は何も聞かんし、何も言わん。

だが、次も隠そうとする余裕があるか?」


痺れが取れた剛剣はあと1歩で結界が出るところだった俺に声をかけてきた。


「……その時はその時だ」


結局、なるようになるしかないのだ。ここまで来たなら明日は魔法職があると世間にバレたとしても勝ちにいきたい。


「覚悟が決まってるなら何も言わん。頑張れよ」


「おう」


そして、俺は結界の外に出た。蹴られた腹の痛みが収まった俺はそのまま観客席にいる2人の元へ向かった。

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