第423話 ヌルヴィスの準決勝 ①
「さて、俺も準備してくるとするよ」
試合を見終わった俺はそう言い、観客席から立って選手控え室へと向かった。
(………)
向かっている途中、全身ローブについて様々なことが頭の片隅に思い浮かぶが、意識的にそれを排除する。
次の俺の相手は全身ローブではないのだ。ならば、それは今考えるべきことではない。
何よりも、準決勝での相手は魔力無しの俺の上位互換のようなものなのだ。決して油断できるような相手ではない。
めちゃくちゃに破壊された舞台の修復が終わると、俺は舞台へと呼ばれて向かった。
俺の対戦相手も同時に舞台へと向かっているが、2m以上はある男でも隠しきれない武器が頭の上から覗いている。
「まさか準決勝で今話題の至極の死神と戦うことになるなんてな」
「それはこっちのセリフだ。Sランクに近いとまで噂されてる剛剣と戦うことになるとはな」
相手の男は剛剣という2つ名を持つベテランAランク冒険者だ。
「この大会でさらに名を高めてSランクになるつもりだ。俺の踏み台となってくれよ」
「お前の踏み台になれるほど俺は低くはないと思うぞ?高過ぎるものを踏み台にしようとすればひっくり返るぞ」
剛剣と俺はお互いを煽り合い、武器を構える。相手も経験豊富とあって、この程度の煽りには動じた様子は無い。
『試合開始!』
「「はっ!」」
試合開始の合図で剛剣と俺は身体強化と闘装を行い、相手に向かって走る。そして、お互いの獲物を振るい合う。
ガキンっ!
「っ!」
俺は武器同士がぶつかった瞬間に力負けすると悟った。瞬時に大鎌を持つ手の力を弛め、勢いに任せて手を中心に大鎌を一回転させて下から振る。
「おっと!」
「なっ!」
しかし、その大鎌を剛剣は金属の手甲でまたはじき返す。俺の大鎌の重さを考えたらそれができるのはかなりおかしい。
「噂には聞いてたが、お前のその大鎌はかなり特別製だな」
「お前の武器もそうだろ」
2つ名の元ともなっているあの大剣はかなり高性能で、大鎌と変わりない重さと、ある程度の切れ味と絶対に壊れない硬さをしているらしい。
しかし、俺の大鎌のように持ち主にだけ軽く感じる効果は無いので、剛剣はその重さの武器を自由自在に操れるほどのパワーをしていることになる。
(闇身体強化)
現時点ではどの物理職のどのステータスでも負けているので、たまらず闇身体強化を使う。
だが、それでもパワーでは負けているだろうな。
(闇魔装)
だから俺は闇魔装を解禁し、大鎌に纏わせる。正直、これを使わないと勝負にすらならない。
これで少しは大鎌に警戒してくれると俺も楽…。
「らあぁぁぁ!!」
「ないよな」
剛剣は闇魔装なんて知ったことかというふうに俺へ向かってくる。性格的にはさっきの試合のSランクと近いしいものがある気がする。
「らあっ!」
「くぅ…」
やはり、まだ力負けするので、俺は大剣を受け流して何とか対処する。だが、相手も技術が高く、受け流し続けられないように攻めてくるため、段々受け流しづらくなってくる。
「っ!」
「よっと!」
俺は苦し紛れに闇の斬撃を放つ。しかし、それは剛剣が振り下ろした武器によってあっさり破壊される。
「おっら!」
「がっほ…」
そんな中、俺の意識が大剣に傾いてきた時に剛剣の前蹴りを腹に食らってしまう。
防具と闘装の上からだというのに、べキッという嫌な音が聞こえてきた。
「がっほごほ…!」
転がった先で膝をき、腹を押えて苦しがっていたが、それでもお構いなしに剛剣は迫ってきている。
「轟け…」
「っ!」
まだ立ち上がれないと判断した俺は思わず詠唱を始めてしまう。そんな俺に剛剣は目を見開きながらも向かってくる。大方ブラフだとでも思ったのだろう。
だが、始めた詠唱を故意に止められはしない。
「サンダーサイズ!」
俺は膝を付きながら大鎌を横に振ると、大鎌から雷でできた大鎌が剛剣へと飛んでいく。
「なあっ!!」
剛剣は驚きながらも、それを大剣で防ぎ、一旦俺から距離を取った。
俺はその隙に何とか痛み堪えて立ち上がった。
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