第422話 Sランク対全身ローブ ②

Sランクの猛攻により、全身ローブの再生限界かSランクのスタミナ切れのどちらが早いかの勝負だと誰しも思った。


しかし、そんなことにはならなかった。


「エクスプロージョン」


「っ!?」


何と、全身ローブは顔しか無い状態にも関わらず、魔法を発動させた。しかも、その魔法は今までよりも威力は何倍にもなっていた。



「有り得ない……」


その様子を見ていたラウレーナが思わず呟く。

それもそのはずで、基本的に魔法は頭でイメージを構成して、体に流れている魔力でそのイメージしたものを実際に作って手などから放つのだ。

つまり、頭だけでは後半のプロセスが行えないため、魔法は使えない。最低でも上半身の半分以上は必要不可欠だが、今の全身ローブにはそれすらもない。



「……まあ、頭が無くても生きてられる奴ならこれくらいできるか」


しかし、冷静に考えたら全身が消滅してもすぐに再生できるような奴なら身体がなくても魔法を使えてもおかしくないな。

本当に人間離れし…過ぎ…た。……ん?あれ?



「…あいつってそもそも人間なのか?」


「「っ?!」」


俺は思っていたことを口に出すと、左右の2人がその発言に驚く。

全身が消滅しても再生でき、体が無くても魔法が使える。そんなの人間では到底無理だ。だが、ここまで知性のあるような行動を取れる人型の魔物は居ないだろう。そうなると、必然的に相手の正体は1つしか思い浮かばない。


「あれは魔王軍幹部なのか?」


「「……」」


俺の疑問に2人は答えない。当たり前だが、2人も全身ローブの正体は知らないのだ。

また、全身ローブが魔王軍幹部と断定はできない。元々魔王軍幹部はあの寄生虫の1人?1体?しか知らないのだ。特徴がまるで分からない。

また、可能性は高くは無いが、ただのびっくり人間の可能性もある。



「今のはさすがに効いたぞ……」


なんて話している間に魔法を食らったSランクが再び全身ローブに接近していっていた。

Sランクの全身は火傷だけで酷いことになっている。特に酷い腕の1部なんかは炭化しているところすらある。だが、それでもSランクは痛みを感じた様子もなく、攻め続ける。


「らあっ!」


Sランクのピンと伸ばした手が全身ローブの腹を貫く。その状態でSランクは走って場外の方へと向かう。


「バーン」


「ぐっ…!」


しかし、場外に出される前に全身ローブは魔法を放ち、腹の穴を広げてSランクの腕を抜いた。

Sランクは全身ローブを場外に出そうという行動をそれからも数回繰り返し、20分ほどたった頃だった。


「かっは…」


Sランクが血を吐きながら四つん這いになり、地面に膝と手を付く。ついに限界が来たようだ。

ちなみに、舞台はお互いの攻撃でとっくに無くなっており、円形に凹んだ状態になっている。そんな酷い有様なのにこちらへ影響が出ていないのは結界のおかげである。


「やっと効いたか。しぶとかった」


全身ローブがSランクの方に歩いていき、何かを呟くが、内容までは聞こえてこない。

Sランクの前まで来た全身ローブはSランクの腕を掴むと、場外に投げようとする。


「まだ…だぜ」


「………」


しかし、Sランクは全身ローブの腕を払い消し、産まれたての子鹿のように震えた足で必死に立ち上がる。


「うざい…殺したい…けど……」


全身ローブはそんなSランクを見て何かを呟き、こちらの方を一瞬見ると、再びSランクへと向き直して拳を引く。


「へぶっ!」


全身ローブの拳がSランクの顔面に放たれる。Sランクは吹っ飛び、そのまま場外まで行くかと思いきや、何とか場外1歩手前で踏ん張って止まった。


「バーン」


しかし、その努力を嘲笑うかのように殴って消えた手を再生させた全身ローブが無慈悲にも魔法をSランクへと放つ。


Sランクはその魔法に飲まれ、そして……。




『試合終了!』


魔法に押されてSランクは場外まで吹っ飛ばされ、試合はそこで全身ローブの勝利で終了となった。


こうして、まさかの圧倒的優勝候補であるSランクがダークホースである全身ローブに負けて準決勝で姿を消した。それと同時に決勝戦の1人は全身ローブに決まった。

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