第418話 ルシエル対全身ローブ②
「無事そうだな」
「良かったよ…」
砂煙が晴れると、怪我したようには見えないルシエルの姿が確認できた。
「でも、どうやったんかな?」
「あの空中で止まってたのを解除してなくて、空中で咄嗟に回避したのか?」
落ちていた場所から離れたところにルシエルが立っていることから、空中で方向転換し、避けたことは想像できる。ただ、具体的にどうやったかは推測しかできない。
「今回は無事だったけど、どう攻める?」
「……」
俺はラウレーナの質問に無言になる。近寄ったら無詠唱の広範囲魔法が飛んでくるため、近寄るのは困難だ。
遠くから攻撃する手段はルシエルも持っているが、それを使うのか?
「吹き荒れろ!」
「っ!」
ルシエルが詠唱を始め、それを見ていた全身ローブはピクっと驚いたような反応をする。
「ウィンドランス!」
ルシエルの魔法が発動される。ルシエルは魔法を使うと決めたようだ。
また、全身ローブは魔法が向かってきているのに、その間突っ立っていただけだった。
「当たっ…はあ…?」
「よっえ…?」
全身ローブが何もせずに突っ立っていたことで、ルシエルの魔法が当たり、俺とラウレーナは喜ぼうとした。しかし、喜びはキャンセルされた。
その理由は単純で魔法を当たったのに、全身ローブに傷が見当たらなかったからだ。何ならローブすら無傷である。
「っ!?」
これにはさすがにルシエルも驚いた様子である。
観客席もほんの少し前はルシエルが魔法を使ったことに対する驚きが支配していたが、今では今の光景に驚きを通り越して固まっている。
ヒタ…ヒタ…ヒタ…ヒタ……
そんな状況を無視するように、全身ローブはルシエルの方を歩いていく。
「ファイアボール!」
ルシエルもただ近寄らすわけもなく、詠唱省略をして魔法を放つ。しかし、その魔法も全身ローブを通り過ぎる。
「はあっ!」
近寄ってきた全身ローブにルシエルは刀を振る。だが、その刀も魔法と同じように全身ローブの身体を通り過ぎる。
「あぐっ…!」
「「ルシエル!」」
ルシエルが全身ローブの謎の攻撃すり抜けに気を取られている隙に、全身ローブはルシエルの首を掴んで持ち上げる。
「ぐっ…うぅ…」
「お…おい!」
強く首を締めているのか、ルシエルが苦しそうにしながら刀を振るが、すり抜けるばかりで当たらない。
このまま首を折られたり、窒息するまで首を絞められたらルシエルは死んでしまう。
「ひ、光れ!」
「っ!」
そんな状況でストックしていたルシエルの光魔法のライトバーンが放たれる。自分も巻き込んだその攻撃は確実にダメージを与えられるものである。はずだった。
「嘘…だろ」
その魔法が消えて、舞台の様子が見えるようになったが、その光景はさっきまでと変わっていなかった。相変わらずルシエルは全身ローブに首を掴まれたままだ。
ただ1つ変わったのはルシエルの力が抜け、手がだらん…っと垂れ下がっていることだ。
(これは違う)
全身ローブは何かを呟くと、まるでゴミを捨てるようにルシエルを結界の外に投げた。
そして、これで試合終了となるが、大会の役員はすぐにルシエルの脈を確認した。
『無事です!』
「ふぅ…」
「はぁ…」
その声で俺とラウレーナの力が抜け、背もたれに寄っかかる。ルシエルは死ぬ前に結界から外に出されたようだ。
ただ、それと同時にこの試合の勝者が全身ローブというのも確定した。
俺達はルシエルが運ばれたであろう医務室へ向かう。
「大丈夫か?」
「どこも問題ないのじゃ」
俺達が医務室に行くと、既にルシエルは目が覚めていた。何でも、運ばれている時の振動で目を覚ましたようだ。
「何があったんだ?」
「………」
ルシエルの無事が確認できたところで、俺は気になっていたことを聞いた。
「まず、1つ目の攻撃がすり抜けた時は斬った感触はあったし、血もよく見るとほんの少し出ていたのじゃ。ただ、斬った時は向かい風で刀を振ったくらいの抵抗しかなかった……」
どういうことだ?斬る感触はあったが、ほぼ無いに等しい。そして、少しでも血は出ていた。
正直なところ、全く意味がわからない。
「それと、あの力は確実に【攻撃】ステータスを持っておるのじゃ」
「「っ?!」」
そうだ。あのすり抜けに注目していたが、全身ローブはルシエルを片手で絞め落とせるほどのパワーもあったのだ。それはつまり、【攻撃】のステータスも持っていることになる。
【攻撃】と【魔攻】を持っているということか?それではまるで…。
「……あれは魔族の可能性もあるのじゃが、余はあれを同族だと思えん。あれはもっと異質の別の何かじゃ」
「「………」」
話はここで終わった。まだ分からないことが多く、ほぼ何も分からないというのが現状だ。
だが、この謎の1部は明日のSランクと全身ローブとの戦いで判明することになる。
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