第417話 ルシエル対全身ローブ ①

「じゃあ、頑張れよ」


「頑張ってね」


「ああ!!」


4回戦を呆気なく勝利したSランクの次の次の試合、ルシエルと全身ローブの試合が始まろうとしていた。そんなルシエルを見送った俺達は観客席に居た。


「正直、勝てると思う?」


「……難しいな」


ラウレーナの質問に俺は素直に思っていることを答えた。


「全身ローブには未知数なところが多いからな。正体や能力を暴くところまではいけても、勝つってなるとな」


また、俺は補足で説明を加える。

全身ローブに更なる力を出させるまでは行くと思うが、それ以上は無理だと思っている。

まあ、全身ローブは謎な部分が多くあるため、その一端でも暴いてくれれば後に戦うかもしれない俺からしたらありがたいんだけどな。



「ラウレーナはどう思ってるんだ?」


また、同じ質問をラウレーナにしてみた。それに対し、ラウレーナは素直に答える。


「勝てるかもしれないとは思ってるよ」


「その心は?」


ラウレーナの答えに少し驚きながらも、理由を聞いてみる。


「現時点の全身ローブの能力なら相性はいいからね。まだ隠している能力が分からないけど、それ次第では勝てる可能性は十分あると思うよ」


全身ローブの得意とするのは広範囲への無差別の魔法だ。しかし、それは自動回避能力を持つ光魔装を行ったルシエルなら不意打ちでない限りは十分回避することは出来るはずだ。

また、全身ローブに隠した力が無かったり、あってもそれが脅威とならなければルシエルなら勝てるかもしれないか。


「そうなると、結論としては全身ローブの未知数な力がどんなもんかって話になるか」


「そうだね」


結局のところ、お互いの予想が当たるかは全身ローブに対して俺が過大評価しているか、ラウレーナが過小評価しているかという2点に落ち着く。

お互いにあの魔法だけならルシエルが勝てるという点に相違は無い。


「始まるよ」


「そうだな」


2人が舞台に上がったのを見て、俺達は私語をやめてこれから始まる戦いに集中する。



『試合開始!』


ドガンッッッ!!


そして、試合が始まったが、開幕早々全身ローブの魔法が舞台全域に炸裂した。



「はあ…ふぅ……」


「上に逃げたのか」


「そうだね」


舞台全体に立ち込めた砂煙が晴れてくると、舞台の空中にいるルシエルの姿が見えてくる。


「魔法を使ったか」


ルシエルは風魔法と土魔法の複合魔法で作った土の板の上に空中で立っていた。

ルシエルはあの魔法を高くジャンプし、その間に詠唱を行うことで魔法を完全に回避し、空中に避難したのか。


「ん?」


「撃たない?」


空中にいるルシエルを見上げながらも、全身ローブはルシエルに魔法を撃たない。


「1日1回の制限とかあるのか?」


「何かの魔導具を付けてて、その制限がかかるとか?」


俺達がそんなことを考えている中、ルシエルは空中で動かない。俺達は気楽に全身ローブの魔法を予測しているが、ルシエルは万が一を想定しないといけない。だから降りる訳にはいかないのだろう。


「輝け!ライトランス!」


だが、睨み合いを1分ほどすると、ルシエルから全身ローブへ魔法を放つ。

その魔法を全身ローブはひょこっと小さく後に跳んで避ける。


「ライトアロー!」


今度は光の矢を5本放つ。それをさっきと同じように全身ローブは避けるが、その中の2、3本の攻撃を避けれず掠る。


「しっ!」


それを見たルシエルは空中の足場の裏にひっくり返ると、そのまま足場を蹴って下へ刀を構えて急降下した。もう魔法は無いと判断したのだろうか。



「「まずい!」」


そんな中、俺とラウレーナが揃って声を出す。その瞬間だった。


ドガゴンッッ!!!


再び全身ローブのむ詠唱魔法が炸裂し、砂煙で何も見えなくなる。


「なんでさっきじゃなくて今なんだ…」


砂煙で何も見えない中、俺はそう呟く。

また、それと同時に魔導具などによる連続発の時間制限でもあるのかと考えていた。



「あ、もしかして…」


そんな時、ラウレーナがハッとした様子でそう呟き、確信めいた続きを話す。


「【精神】が低くて魔法のコントロールや調整ができないのかな?」


「あっ…」


魔法職のステータスに存在すると【精神】はそれが上がるほど魔法の細かなコントロールや加減ができるようになる。逆にそれが低いほどそれらが難しい。普通は【魔攻】と共に上がるからコントロールはともかく、威力の加減は差程問題ない。だって加減が出来なくても【魔攻】が低ければそもそも大した威力の魔法は撃てないからな。

だが、高い【魔攻】を持ちながら、【精神】が極端に低いとどうなるか……。


そんなことを考えながら舞台に注目していると、砂煙が晴れてきて二人の人影が見えてきた。

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