第414話 ラウレーナ対Sランクの女 ①

「はあっ!」


「よっ!」


戦いは走って向かったラウレーナの拳とSランクの拳がぶつかり合って始まった。


「いい力してるな!」


「くっ…!」


しかし、ぶつかり合いの結果はラウレーナが力負けし、後ろに吹っ飛ばされることになった。

一応ラウレーナは身体強化と水魔装をしているが、それでもきっと軽く身体強化をかけた程度のSランクの女に力で勝てないのか。


「流れ出ろ!ウォーターネット!」


ラウレーナは次に水の巣を作る。その様子を止めもせずSランクの女は見ている。


「しっ!」


ラウレーナは巣の水の線を使い、高速でSランクの女の後ろに回り込んで背中へとパンチを放つ。


「いい速さだな」


「なっ…!」


しかし、そのパンチは振り向いたSランクの女が手首を掴むことで止められた。



「完全に見切られてるのじゃ…」


「ああ……」


まだ拳を受け止められたのなら山勘で手を置いた可能性があった。しかし、手首を捕まれたといことは、完全に動きを把握されていることになる。そうでないと向かってくる手首を横から掴むなんてできないからな。


「これは耐えられるかな!」


「あがっ…!」


ラウレーナの手首を話すと、Sランクの女はラウレーナの腹を殴った。ラウレーナは苦しげな声を上げて吹っ飛ぶが、すぐに体勢を立て直して立ち上がる。


「ん?それなりに強く殴ったつもりだが……防御は高いようだな」


「けほっけほ…!」


Sランクの女からしたら予想よりダメージがなかったかもしれないが、ラウレーナは十分ダメージを受けている様子だ。

ラウレーナの水魔装は防御に特化しているが、あくまで強いのは斬撃であり、打撃には少し強い程度だ。Sランクの女から不得意分野の打撃を食らわせられたため、見た目よりもダメージは入っているだろう。


「それならもう少し強く殴っても良さそうだな!」


「っ!」


ここで初めてSランクの女が攻めに転じてきた。

さっきのラウレーナの水の線の移動とほとんど変わらない速度でラウレーナの前まで移動すると、今度は蹴りを放ってくる。


「うぐっ…!」


さっき殴られた時に水の巣から出てしまっているラウレーナは両腕で蹴りをガードするが、また後ろに吹っ飛んでしまう。勢いを殺しながら何とか立ち上がるが、そのすぐ後ろにはSランクの女が回り込んでいた。


「ほいっ!」


「かっは…!!」


ラウレーナは背中にSランクの女の前蹴りを食らった。背骨が折れるかもと思うほど一瞬仰け反った後、受け身も取れずに舞台上を転がった。


「……主なら即死なのじゃ」


「怖いこと言うな!」


ルシエルがボソッと怖く失礼なことを言ってくる。まあ、今のラウレーナ用に力を込めた前蹴りを俺が食らったらほぼ確実に即死、運が良くて意識不明の重体だろうけどさ。

ただ、だからこそ危険感知と気配感知がある俺ならノーガードでは絶対に食らわないけどさ。


「ぐっ……うぐぐ……」


しかし、ラウレーナはそんな攻撃を食らっても立ち上がろうとしていた。


「勝てないって分かったと思うけど、まだ立ち上がるのか?もうあの魔法も消えてるのに」


Sランクの女がラウレーナにそう言う。

今のを見るにラウレーナの実力はSランクの女に遠く及ばない。また、さっきの攻撃で水の巣の魔法を維持も途切れて解かれている。

ただ、だからってラウレーナが諦める理由にはならない。ここで諦めるようならラウレーナはこれまで何回もあった修羅場のどれかでとっくに命を落としている。


「その根性は嫌いじゃないし、むしろ好きだと言ってもいい。だが、考え無しで頑張ればどうにかなると思ってるならそんな甘い相手じゃないぞ?」


「流れ出ろ…」


Sランクの言葉を無視し、立ち上がりながらラウレーナは再び詠唱を始める。


「ウォーターフォース!」


「また同じ……ん?数すら減ってるじゃないか」


ラウレーナが作ったのはさっきの巣ではなく、2本の水の線だ。その2本の線は完全に立ち上がったラウレーナの腰からSランクの少し奥まで伸びている。


「「あ!」」


ラウレーナの目的をラウレーナとの付き合いが濃く長い俺とルシエルだけは分かった。

そして、その瞬間だった。


「はあぁ!!」


「ぶっ…!」


さっきまでを上回る速度で移動したラウレーナの膝蹴りがSランクの女の顎に命中した。

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