第412話 1回戦目の終了

「さて、いよいよか」


開会式の次の日、ルシエルの試合がある日だが、その前に俺が気になっている試合が始まろうとしている。


「…………」


舞台の中にいる全身ローブは試合が始まる寸前だと言うのに、俺の方を向いて動いていない。


「おい!てめぇ!舐めてんのか!」


その態度に対戦相手の冒険者がキレているが、それを完全に無視している。


『えー、、試合開始!』


アナウンスはその様子に戸惑いながらも、試合開始の宣言をする。

そのアナウンスと同時に冒険者の男が全身ローブに双剣を手に迫っていく。

そして、その双剣が全身ローブに振るわれた瞬間だった。


ドゴンッ!!


予選と同じく強力な魔法が舞台に炸裂した。再び砂煙で何も見えなくなった中、何かが飛び出してきて闘技場の壁に激突した。



『し、試合終了!』


砂煙が晴れ、舞台の中に全身ローブだけが立っていたことで試合が終了した。さっき吹っ飛んできたのは全身ローブの対戦相手の男だった。

ちなみに、闘技場の回復させる魔導具以外にもう1つ結界の魔導具が設置してあり、その結界が舞台からの攻撃が観客席に行くことを防いでいる。

そのため、仮にこの男が上に吹っ飛んでいたとしても観客に被害で出ることはなかった。


「………やばいな」


2種の魔導具越しかつ距離があるから魔力感知ができないとはいえ、注意深く見ていたのに魔法の予兆を何も感じられなかった。あの一撃は魔導具の線も出てきたぞ。


その後、全身ローブは対戦相手には目もくれず、俺から目線を切って舞台から退場した。




『試合開始!』


また、その少し後にはルシエルの試合も始まった。

ルシエルの相手は魔法職であり、無詠唱の魔法を使っていた。しかし、ルシエルからしたら無詠唱で威力が落ちた魔法を避けるのは難しくなく、避けながら相手へ少しづつ近付いた。近付いたルシエルは相手に刀で大きな傷を付け、あっさり勝利することができた。今回は相性が良かったのもあるが、あっさりと勝利することができた。


そして、次の日も問題なく過ぎ、ついに俺の試合がやってきた。


『試合開始!』


その合図で俺の対戦相手は大盾を前に構える。

俺の相手は全身鎧の大盾と直剣を持った騎士の男だった。


「はあっ!」


ガキンッ!!


俺の振った大鎌が大盾にあっさりと受け流される。その後連撃を繰り出すが、それも同じように防がれてしまう。また、少しでも隙を見せたら直剣で付くような攻撃をされてしまう。

正直、魔力を使えない俺にとってこいつは相性最悪だ。魔力が無いせいで突破力にかけてしまう。魔力さえ自由に使えればこんな全身鎧のノロマなやつくらい遠くから魔法を放つだけで勝てるのにな。


(……仕方ない)


このままやっていると、時間切れになって2人とも負けてしまうのが目に見えている。

騎士にとってはAランク冒険者相手に無傷で戦いを終えたとして、護衛としての高い才が認められるかもしれんが、俺には何も残らない。

だからある程度魔力を使うことにした。


「闇身体強化」


「っ!?」


その第1段階が闇身体強化だ。対戦相手が魔力感知を使えない限り、魔力を使っているのはバレない。また、何か不審がられても魔導具と誤魔化せばいい。


「無属性付与」


そして、ダメ押しに無属性魔法を大鎌に付与し、斬れ味を上げた。その結果どうなるかと言うと…。


「らあっ!」


「なっ…?!かふっ…!」


大盾と鎧ごと騎士を斬り裂いた。元々この大鎌の性能よりも大盾の性能の方が遥かに劣っていたのだから上手く受け流されなければこうなってしまう。


「ま、参った…」


『試合終了!』


臓器が零れないように腹を押えながら蹲る騎士がギブアップを宣言したことで、試合は終了した。


「………」

「………」


「はあ…」


ただ、俺は開会式よりも2人に目を付けられてしまったようで、舞台の上で熱く強い視線を感じていた。その視線から逃げるように俺は舞台から去った。


こうして4日間に渡る1試合目が今日で全て終わったが、特に問題もなく俺達パーティ全員が勝ち進むことができた。

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