第411話 開会式とラウレーナの初戦

『開会式を始めます!』


そのアナウンスで俺達は舞台へと入場を始める。

本戦は総勢127名で行われる。そのため、初戦だけシードが出ることになるのだが、その枠はSランクの女に与えられた。

ちなみに、予定ではシード無しの128人の予定だったが、予選の1回目で全身ローブとルシエルの2人しか残らなかったから1人減ったのだ。



「………」


「………」


舞台に上がった俺と全身ローブは睨み合っていた。いや、フードを深く被っているせいで影になって全身ローブの目が見えないため、相手は睨んでいるか分からないけど。


『今大会は勇者の参加は無かったが、Sランク冒険者や勇者の代理や謎のダークホースを始め、優秀な者達が多く参加している。また、……』


そんな中、大会主催者の開会の挨拶が始まった。S冒険者は稀に参加するそうだが、頻度はかなり少ないため、今回の大会は注目度が例年よりもかなり高いそうだ。


『……なので、』


「おい!話がなげーって。タダでさえシードになって不機嫌なんだからさっさと話を終わらせろよ」


3分ほど話し続けていたところでSランクの女が主催者に文句を言った。こいつ的にはシードになったのは気に食わないことらしい。まあ、戦闘狂そうだもんな。


『…おほん。では、諸君の健闘を祈る』


文句を言われた主催者は話を途中で切り上げ、挨拶を終わらせた。なんか少し不憫に思えてきたな。


「で、では、次に大会のルールと注意について説明します!」


その後はルールなどを聞いたが、事前に聞かされている者と何ら変わらなかった。



「では、早速第2試合に参りましょう!第2試合の人以外は退場してください」


開会式が終わると、俺達は退場していく。第1試合がシードのため、今回は第2試合から始まるのだ。


「決勝で待ってるぜ」

「決勝でね」


「ん?」


俺の左右からそれぞれ似たことを話された。


「あ゛?」


「……」


左がSランクの女で、右がなんと全身ローブだった。お互い睨み合っているが、俺はその隙に舞台から逃げるように去った。これに巻き込まれたくは無い。


「今日はラウレーナの試合だな」


「頑張るよ!」


今日は俺達3人の中でラウレーナのみが試合である。明日はルシエルで、明後日に俺の試合がある。



「じゃあ、行ってくるね」


「おう!頑張れよ!」


「頑張るのじゃよ!」


かなりの盛り上がりを見せる試合を見ていると、あっという間にラウレーナの出番になった。

ラウレーナの相手は同じAランクの冒険者で、2つ名は泥沼の主である。分かっているのは物理職であることくらいである。



『試合始め!』


「らあっ!」


試合の合図と同時に泥沼の主がガントレットを付けた拳で地面を殴る。すると、そこから半径5mほどを泥沼になった。

あのガントレットは魔導具なのだろうな。


「さあ!来いよ!」


もちろん、自分も泥沼にいるのだが、本人は全く問題なさそうに立っている。

もしかすると、足に着けているガントレットの足版である金属のソルレットが泥沼でも問題なくするような魔導具なのかもしれない。


「……わあっ!」


試しに片足だけ泥沼に入れたラウレーナだったが、一気に膝近くまで沈んだ事で慌てて足を抜く。


「うーん……」


ラウレーナはどうするかを考えている。相手が泥沼から出ようとしない以上、自分から行くしかない。


「流れ出ろ!ウォーターネット!」


ラウレーナは泥沼の範囲を大きく超える10mサイズの水の巣を作った。

どうやら、力を隠して勝つのは諦めたようだ。相手もAランクということもあり、油断したら負けてしまうからな。


「はあっ!」


「うぐっ!」


相手は高速でやってきたラウレーナに驚きながらも、さすがはAランク冒険者、何とか腕をクロスして防御する。

ちなみに、ラウレーナの移動は水で引っ張っているだけなので、泥沼を歩いていない。そのため、泥沼はほとんど機能していないことになる。

そこからはずっとラウレーナペースで、高速移動するラウレーナに攻められっぱなしだった。

普段は泥沼で相手の動きが鈍るからか、高速で動く相手との戦いには慣れていなさそうだった。



「がほっ……」


「ふぅ…」


『試合終了!』


最終的にはラウレーナが拳を泥沼の主の腹にクリーンヒットさせ、ノックアウトさせて勝利した。


ラウレーナは無傷とはいかないが、軽傷で勝利できた。しかし、手の内はかなり見せてしまった。

まあ、手の内がバレたところであれに対処出来る者がどれだけいるかだがな。

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