第409話 ルシエルの予選
「さて、ルシエル頑張れよ」
「頑張ってね」
「任せるのじゃ!」
俺達は予選に出場するルシエルを見送った。
大会締切当日に奴隷も参加可能になったのはそれなりに揉めていた。金持ち共は自分のコレクションんである奴隷を自慢するために大会へ出したかったためである。
だが、そんな状況もSランクの女が一喝したら収まった。ただ文句を言いたいだけのような小さい連中からしたらSランクという強さという1点のみを極めた歩く治外法権とは絶対に揉めたく無いはずだ。
「……意外と奴隷もいるな」
観客席に移動する最中に周りを見ていた俺はそう呟く。公表されてから一日だけだとしても、奴隷を出させた者はそれなりにいるようだ。
ただ、その増えた分を帳消しにするかのように元々受付をしていた参加者が減ったらしい。もちろん、その理由はSランクが参加すると分かったからだ。
「これが言ってたドームか…」
「凄いよね」
観客席に移動した俺達は舞台を囲っている半透明の巨大な半円に目を奪われていた。
「これをやっているのは巨大でかなりの魔石を使う魔導具らしいけどな」
この半円は今大会だけでAランクやBランクの魔物の魔石を10数個使うほど燃費が悪いそうだ。
だが、その分その効果はもの凄い。
「この中でどんな傷を負っても外に出たら無傷に戻るのは凄いよね」
なんと、魔導具を起動した時点でこの半円の中居た者はどんな重傷を負っても、この半円の外に出たら傷は無くなるらしい。また、失った血も元に戻るそうだ。
ただ、怪我を負った状態で中に入ったとしても、それは外に出ても元通りにはならない。ただ、どれだけその傷が悪化しようが、出た時には入った時と同じ状態になるらしい。
とはいえ、中で死んだら外に出てもそれは覆らない。だから故意な殺しは不可としており、もし故意と判断されたら即失格となる。しかし、毎年死者は出ているそうだ。特に同時に大勢が戦う予選で多いらしい。
「それに1度本格的に起動したら外から入るのは不可能で、中に居る人が全員出るまで止まらないんだもんね」
また、1度起動すると、外からの干渉は全く受けない。そのため、外から邪魔をされないのだ。
さらに、この効果は1度外に出た者にも適応され、1度半円の外に出たら再び入ることは不可能となる。
「おっ!早速出てきたぞ」
「まさか1番最初の試合になるとはね」
なんと、ルシエルの試合は最初の試合だったのだ。正直早く終わってくれるから本人は嬉しそうだった。
「ん…?」
何百人もの人が入場している中で、身長は140cm程しかないであろう全身黒のローブに身を包んだ者が目に止まった。
「どうした?」
「いや…何でもない」
なぜ目が止まったのか分からないが、どうしても気になってしまう。だが、別に強そうとかでは無いのだ。
「……では、試合始め!」
何てボーッとしていると、試合が始まった。俺は意識的に視線をルシエルへと持って行った時だった。
ドゴンッ!!!
「「なっ!!」」
闘技場に強力な魔法が放たれた。もちろん、その効果は闘技場全体に及んでおり、完全な自爆行為だ。
何人もの人が場外まで吹っ飛んでいる中、だんだん砂煙が晴れてきた。
「うぐっ……」
「「ルシエル!!」」
舞台の端の方にいたのが幸をそうしたのか、地面に刀を刺して光魔法をして場外に吹っ飛ばされるのを耐えていたルシエルが見えてきた。
また、ルシエル以外には俺が見ていたローブの奴が立っているだけで、その2人以外に立っている者は居ない。
ヒタヒタ…
「おいっ!」
そんな中、そのローブの奴がゆっくりルシエルへと歩いていく。それに思わず声をかけてしまう。
「そ、そこまで!!勝者はルシエルとラトリー!」
ただ、俺の声で審判が我に返ったのか、その宣告をかける。すると、闘技場の結界が解除され、闘技場で倒れていた者達の傷も治る。しかし、気絶している者が起きる訳では無いため、大会役員は中で倒れたものを外に出していく。
「………」
そんな中、ローブの奴は俺の方を向いて動かない。それが1分弱続いた頃だろうか、大会役員に話しかけられたことで歩いて去っていった。
「Sランクの女だけが問題って訳じゃなさそうだ」
あいつがさっきの魔法をやった犯人かは分からない。だが、俺はそう思えて仕方がなかった。
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