第406話 紹介状

「お待ちしておりました。では、ご案内します」


街に着いた俺達がまず向かったのは依頼した者がいる別荘だった。紹介状を貰わないといけない関係上、絶対に行かないといけない。また、締切が明日までと考えたら最優先で行くべきである。

屋敷の前に門番は居たが、名前を言うと、すんなりと中に通してくれた。



「こちらです」


そして、執事に案内されながら廊下を歩き、たどり着いた豪華な扉を開け、中に案内される。



「待っていたぞ」


中に居たのはガタイの良い40歳ほどの髭を生やした男だった。

その男と向かい合うように俺達はソファに座った。


「予定日になっても来ないから勇者の代理という重圧から逃げだしたのかと考えもしたぞ」


「ふっ…。まさか。盗賊を掃除してたら遅くなっただけだ」


思わず、鼻で笑ってしまった。勇者の代わりが嫌になることはあっても、重圧に感じることは絶対無い。


「なるほど。さすがは勇者を叩きのめすだけはあるな」


(へぇ…)


あからさまに勇者を舐める態度をとったにも関わらず、目の前の貴族はそれに対して不快感を表すことはなかった。

全ての貴族がいけ好かない性格をしているわけではないのだな。


「では、詳しい依頼内容を話そう」


そう言うと、男は詳しく依頼内容を話す。

しかし、その内容と報酬はラウレーナから聞いていたものとほとんど変わらなかった。ただ一点を除いては。



「依頼達成は優勝か好成績って何だ?2位や3位でもいいのか?」


ラウレーナに聞いていたのは優勝だったが、好成績でも依頼達成とみなして魔導具をくれるそうだ。

だが、その好成績の基準か分からない。


「好成績に順位は関係ない。例えば初戦敗退でもいい。ただ、誰が見ても実質的な2位であるというような試合をした場合のみ好成績に任命する」


「……誰が出るんだ?」


その言い方的だと対戦した時点で負けが決まるような圧倒的強者が居ると聞こえてしまう。そんな優勝候補が出るのか?


「Sランク冒険者が出るという噂がある」


「……何でまた」


まともな人が居ないことに定評があるSランク冒険者がどうして大会なんかに参加することになってるんだ。


「勇者に興味があるそうだ。何でも、勝った相手の職業を集めるのを趣味としているそうだ」


「何だそれは……」


その戦いに勝った者の職業を集めるって意味が分からない。特に相手の職業を奪うとかではなく、完全な趣味なんだそうだ。


「メジャーな職業はもう集めているから珍しい職業の者を探していたそうだ」


「なるほどな」


そう言う意味では勇者は有名でありながらレアな職業である。ついでに言えば、剣聖や賢者もその部類になるな。


「だから勇者が出なくなったのならもう出ない可能性が高いが、念の為の契約内容だ」


「なるほど」


人外とも言えるSランクに対しては勝たなくてもいいとしているのがせめてもの救いだな。


「それ以外でもAランクの冒険者は何人か出ることが決まっている。Sランクが居ないからと油断はするな」


「分かった」


Sランクでは無くても強い者は大勢いるのだ。決して油断出来る訳では無い。

何より、俺は魔力を使えないのだ。その点を含めると、かなり厳しくなるだろう。


「ところで、その代理にラウレーナを含めるのは可能か?」


「ほう…」


そこで、俺は目の前の男にそう提案する。本当はルシエルも参加させたかったが、大会のルールで奴隷は参加不可だから仕方がない。また、ルシエルにどこまでステータスを出させていいのかが微妙である。魔力と闘力のどちらも持たないとはいえ、全てのステータスを使わせるのはまずいからな。


「実力はあるのだろうな?」


「もちろん、俺と同じくらい。…勇者よりは確実に強いな」


実際、魔力なしの俺よりもラウレーナの方が強い。


「勇者の代理である以上、情けない真似はできないというのは分かっているな?」


「はい」


男からの圧を感じる質問にラウレーナは即答する。


「……よし。ラウレーナの参加も認めよう。紹介状を用意する。別室で暫し待たれよ」


そう言われ、俺達は別室に移動する。

そして、5分ほど待つと、2つの紹介状を持って執事がやってきた。それを貰って俺達は屋敷を出た。


「よし、受付に行くか!」


紹介状を受け取った俺達は大会の出場受付をしに向かうのであった。

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