第403話 避けられない対話
「じゃあ、聖女を呼ぶけどいいんだよね?」
「……ああ」
俺がラウレーナに返事をすると、ラウレーナは聖女を呼びに行った。
体調は一晩明けたら治っていたので、予定通り勇者が目覚める前に聖女を何とかして早く街を去りたい。そのために聖女と話をつけるのは避けられない。
「神祖様!大丈夫ですか!!お怪我は残っておられませんか!」
「……たった今怪我をしそうだったよ。鼓膜をな」
叫びながら突撃してきた聖女に聞こえない声で俺はつぶやく。冗談抜きに鼓膜にはダメージはあった。俺よりも発信源の近くにいるルシエルとラウレーナは耳を押えて顔を顰めている。
しかし、聖女の視界にはそんな2人の様子は写っていないのか、俺の方へ一直線にやってくる。
「怪我は無いが、俺からお前に話がある」
「何なりとお申し付けください!」
俺が声をかけると、聖女はすぐそばにやってきて跪く。このまま「聖女、自害しろ」と言えば腰に携えた聖剣で遠慮なく自害しそうだな。
………言わないけどさ。
「まず、俺が神祖ってのはどういうことだ?」
「創造神と同じ魔力と闘力を持った人間は神祖様です」
えっと…つまり、神が魔力と闘力を持ってたから同じ人間は神と同類認定ってことなのか?
「それは神が言ってたのか?」
「いえ。ただ、我々の教義にはそう記されています」
つまり、その認定は教会の人間が勝手にやってることで、神はそれに関与していないのか?
ってことは俺はたまたま同じ能力を持った神のせいで聖女という面倒な奴の相手をすることになったのか。
「俺は神祖ではない」
「いえ、神祖です」
聖女は俺の言葉に被せることはせず、だけど即答で俺の言葉を否定してくる。
聖女の俺=神祖という考えはどうやっても覆らないようだ。それならやり方を変えるしかない。
「俺は神祖ではない。この俺がそう言っている意味がわからないのか?」
「ヌルヴィス様は神祖ではありません」
俺はこの返答に表情には出さず、心の中でニヤッと笑みを浮かべる。
聖女にとって神祖は至高な存在である。だから聖女が白だと確信していることでも俺が黒と言えば聖女も黒と言うのだ。
「このスタンピードはどうやって解決した?」
「Sランクから貰った異名持ちのAランク冒険者の属するパーティが寄生された勇者様を救い出して解決しました」
「その通りだ」
どうやら、この聖女は勇者ほど頭が弱くもないようだ。俺が1を言えば、10まで理解してくれる。
ただ、そこまでの理解の途中であらぬ方向にいかないようにしないとな。
「この真実以外を知る者は現場に居たものだけでいい」
「分かりました」
これで聖女が俺の事を広めることは無いはずだ。
「話は以上だ」
「では、最後にこれをお返しします」
聖女はそう言うと、腰に携えていた聖剣を俺に差し出してくる。
……ずっと聖女が聖剣を持っているのは気になっていたが、このためだったかーー。
「それは要らん。それは勇者の物だ」
「はっ!なるほど、かしこまりました」
何をかしこまったのか知らないが、聖剣を差し出すのをやめてくれたのでよかった。
聖女は闘力と魔力を持つことについて詳しく知っていそうだが、これ以上話したくない。それに話が脱線してややこしいことになっても困る。
「じゃあな」
「では失礼します」
ということで、聖女には早々に立ち去ってもらった。
「ふぅーー…」
時間にして10分くらいしか会っていないはずなのに、どっと疲れてしまった。
「さて、問題も解決したことだし、次の行き先を決めるか」
飲み物を飲むなどして少し休憩をとってから俺は2人にそう提案する。やっと何の憂いなく次の話へと移れる。
「それが指名依頼が来てるんだけど」
「何?どこからのどんな依頼だ?」
一応Aランクなので、指名依頼くらい来るのは予想できるが、どんな依頼なのかは気になる。それもラウレーナが即刻却下することなく俺に尋ねてくるくらいには興味をそそる依頼なのだからな。
「サラステン王国の貴族から勇者の代わりに王国の代表として大会に出て活躍してくれないかっていう依頼なんだけど」
「うわぁ…」
俺はそれを聞いて微妙な反応をしてしまう。
サラステン王国とは俺が生まれ育ち、勇者が所属する国である。そこからの依頼で大会に出るまではいい。だが、関わりをできるだけ持ちたくない勇者の代役というのが気に食わないのだ。
「報酬は?」
肝心なのは報酬だ。どんな依頼だとしてもまずはそこを聞かないと始まらない。
でも俺の気持ち的にはほぼ断るつもりである。
「闘力や魔力以外で、最低値のステータスを2割減らす代わりに最大値のステータスを1割上げる古代の魔導具の腕輪だって」
「……それは興味があるな」
しかし、俺はその報酬を聞いて考えを少し改めた。
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