第402話 状況確認と面倒事

「2人とも…痛っ…」


「ヌルヴィス!?」

「主!?」


やってきた2人と顔合わせようと上半身を上げると、頭痛と気持ち悪さがやってきた。

2人はその様子を見て慌てて駆け寄って来ようとするが、手を伸ばして制止する。この痛みと気持ち悪さは身に覚えがある。


「ただの魔力と闘力を空にした欠乏症だ」


魔力や闘力は0になるまで使ってしまうと、頭痛や気持ち悪さという症状がある。同時に0にしたのは初めてだったため、症状の重さに少し驚いただけだ。


「でもこの症状が残ってるってことはそんなに気絶してから時間が経ってないのか?」


この欠乏症は魔力や闘力が満タンになった時に治る。欠乏症になると溜まるのが遅くなるが、それでもまだそんなに時間が経って居ないに違いない。


「一晩明けただけだよ」


「なら良かった」


前回のように1ヶ月も眠り続けることがなくて良かった。


とりあえず、現在の状況を理解したところで、寄生勇者と何があったかを思い出そうとする。俺が聖剣を使って寄生勇者をどうにかしたのは何となく覚えているが、勇者から聖剣を奪ってからそこまでの記憶はかなりボヤけている。

また、聖剣を使ってから以降の記憶は全くない。


「2人は特に問題なさそうだけど、シアは大丈夫か?それとルイも」


目の前の2人は特に怪我が残っている様子もなく、健康体そうだ。しかし、ルイはともかく、シアは寄生勇者によってそれなりの怪我をしていたはずだ。


「ルイもシアも問題ないよ。シアはまだ目覚めてないけど、命に別状はないらしいよ」


「それは良かった」


寄生勇者に斬られたシアはそれなりの重症だったが、その場ですぐ聖女が治療したから問題はなかったようだ。とはいえ、寄生勇者が目の前にいるのに治療をしに行くのはやめて欲しかったけど。



「あ、勇者は?」


ひとまず安心すると、勇者のことが頭に浮かんだ。記憶が確かならそれこそシア以上の重症にさせたはずだ。


「まだ目覚めないけど聖女のおかげで四肢は無事だし、そのうち目覚めると思うよ」


「聖女が居て綺麗に切断された四肢すら繋げられなかったら聖女引退レベルだしな」


回復魔法を超越するとされる聖魔法を使って四肢すら繋げられないのなら聖女と名乗れないだろう。


「あ、聖女で思い出した。ちょっと面倒なことになってるよ」


「面倒なこと?」


聖女で思い出したということは聖女関係で何かあったのだろうか?


「聖女がヌルヴィスのことを神祖って言って騒いでたよ」


「あっ……」


そう言えば、余裕が無かったとはいえ聖女の前で堂々と魔力と闘力を使ってしまった。

確か、教会とかでは魔力と闘力の2つを持つ者を神祖、神の祖として神と共に信仰していると言ってもいいらしかったな。


「しかも聖剣を勇者よりも使いこなしているのも見ていたそうじゃよ」


「なんてこったい…」


魔力と闘力を持ち、聖剣を勇者よりも使いこなす。もう言い逃れができそうにないぞ。


「最初は勇者が寄生されたことに意識が集中してたからいいけど、落ち着いて何があったかを理解してからはこっちに突撃してこようとしたよ」


「勇者を放置して付きっきりで看病しようとしてたのじゃ」


「それは勘弁だな…」


聖女に付きっきりで看病されるというのは豪華なのだが、目覚めてあれが居ると考えるとまた眠りたくなるくらいには気分が下がる。


「それでどうする?」


「……聖女を黙らせて勇者が目覚める前に次の街に行くか」


できるか分からないが、聖女が俺の事を言いふらさないようにはしたい。神祖というのが広まると冒険者として活動するのが難しくなる。

それは抜きにしても何となくその噂が広まるのは絶対に避けなければいけない気がする。


「それなら聖女を呼んでくる?」


「……明日以降にしてくれ」


今の頭痛と気持ち悪さを抱えたまま聖女と相対するのは嫌だ。絶好調の時ですら避けたいのだから体調不良の時は尚更だ。

それに体調不良が悟られた瞬間に何日も看病されそうだ。


「分かったよ。まだ辛そうだから今日はゆっくり休んでね」


「いっぱい寝るんじゃよ」


「おう」


そこで2人は部屋から出て行った。それから何回か食事を持ってくる以外は1人でほとんど眠っていた。そのおかげか、次の日には頭痛と気持ち悪さが完全に治っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る