第401話 とある夢の話
ある時、神が1つの世界を創造した。
想像したのは自分の1部である闘力と魔力を片方ずつ持ったあらゆる種族の人間とどちらも持たない動物だけだった。その世界は人同士の争いは時々あっても平和と言って良いものだった。
そんな世界を作ってくれた神に皆感謝していた。
その事に世界を作った神も喜んでいた。
だが、神はどこか退屈に思っていた。平和なせいで信仰も減ってくるし、世界に大きなトラブルもない。突然一つや二つの国くらい滅ぶイベントでもあってくれれば……何て考えていた。
そんな中、突然変異なのか闘力と魔力を同時に持つ人間が生まれた。その者は世のため人のためにその他の人よりも恵まれた力を使った。
その結果、その人間を神と崇める人が多くなった。
その様子を面白く思わないのが世界を創造した神だ。ただの人間が自分のように神と信仰されている。どうしようもなく気に食わなかった。
だが、直接降臨して手を降すことは今の神にはできなかった。
だから神は神託として全世界に言葉を授けた。それは「今信仰され始めている者は私の力を奪った敵である。その者は魔王である」と。
もちろん、その言葉に全員が納得した訳では無い。
だが、その人間に助けられていない者はそれを信じてしまう。
さらに、神がとった行動はそれだけではなかった。自らも使う剣に闘力を魔力に変えるという力を加え、聖剣として授けたのだ。
そこから魔王と名付けられた者と聖剣を手にした勇者の戦いが始まった。
また、その長い戦いの中で神は2度と魔王のような者が生まれないようにした。それが魔物である。生み出した魔物に彩化という特殊変化を加えることで人間が魔力と闘力を持って生まれることを防いだ。
魔物は第2の魔王対策だったが、それが生まれたのを魔王のせいにした。また、いい感じに人間が死ぬことも増え、信仰も増し、見ていて退屈しないから満足していた。
さらに、神は魔王に呪いまでかけ、魔力と闘力を同時に使用することを不可とした。
少しでも魔王を自分の下位互換にしたかったのだ。
だが、魔王もただでは死ななかった。魔王は自分と自分に付き従って暮れる者達を転生させるようにした。いつしか、自らを魔王と認定した神を殺すために……。
しかし、魔王は何度転生しても勇者には勝てなかった。その理由はレベルを上げる前に勇者がやってくるからだ。魔王は神託によって生まれて1年経たずに勇者がやってくる。身体はある程度成長した状態で転生するが、それでもステータスは低い。
どれだけ時間を稼ごうが、それは変わらなかった。また、魔王は神を殺したいだけで人間を殺したい訳では無い。だからできるだけ無駄に人間を殺さないというのも勝てない要因だったかもしれない。
と言いつつも、1つや2つの国は滅ぶ結果にはなっていたのだが。
また、勇者達は仲間を引連れてやってくる。いくら少し前に転生した仲間達と戦っても恵まれた環境でレベル上げをした者には勝てない。
魔王はもうこの輪廻を終わらせ、諦めようと考えた。自分はまだいいが、ずっと殺されるために転生させる仲間に申し訳ないという気持ちが強くなった。
だが、自分だけ転生しないのは仲間から猛反対されたからだ。自分がまだ戦うなら一緒に戦うと…。
そのような考えをしたことが良かったのか、ある事を思いついた。今まではレベルが上がってもほとんどステータスが上がらない魔王という種族として転生していたが、人間として転生すればいいのでは?という考えだ。
その考えが浮かんでからは転生先を変えることに集中した。今世では無理で来世でもまだ不可能だった。来来世でやっとその転生術は完成したが、その時はもう勇者が自分の根城に攻めていた。もう時間稼ぎをしてくれたために仲間も残っていなかった。
もっと正確性を確かめたかったのもあり、人間への転生は来世にしようかと一瞬思った。
だが、神が不審な行動をしている魔王のことに注目し始めていたのを薄々感じていた。これ以上時間をかければその転生も防がれ、状況はさらに悪化する可能性もあり、今世で魔王に殺された時、人間への転生を行った。
その人間の転生は成功したが、ある意味失敗した。
なぜなら、記憶が引き継がれなかったからだ。今まで何のために頑張っていたのか、大切な仲間の存在。何よりも憎き宿敵の存在も覚えていなかった。
だが、そんな中でも幸運もあった。記憶が引き継がれなかったからか、呪いが消えていたのだ。
レベルを上げる時間もあり、呪いも消えたことで歴代最強の初代の魔王の力を越えられ、宿敵を討てる可能性もあった。
だが、そのことを覚えていなければなんの意味もない。
また、今回が不完全な転生だったため、次に死んだ時にもう一度転生できるかは分からない。
「ん…ん?」
目の前には知らない天井がある。
「何か夢を見た気がするけど……何だっけ?」
眠っている間に夢を見た気がするが、その内容は全く覚えていない。
ドタドタ!バタン!
「ヌルヴィス!」
「主!」
夢を思い出そうとしている中、ラウレーナとルシエルが部屋にやってきた。
そのため、夢のことはすっかり頭から消えた。
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