第400話 聖剣

「な、何だあれは……」


寄生勇者が動きを止めてこちらを向いてそう呟く。

本当はこの隙に寄生勇者へ攻撃をするべきなのだろうが、その光景を前に誰も動けなくなっていた。


キィーーーー!!!


聖剣の光と音はどんどん強くなっていく。


(なんだ?)


あまり働かない頭で俺はこの不思議な現象について考えていた。と言っても、何も考え浮かばない。


(それなら…)


俺の今の少ない脳のリソースで考えられることと言ったら単純で簡単なことぐらいだ。だからどうやって寄生勇者にダメージを与えるかだけを考えた。


(ん?)


そうすると、あれだけ動かそうと念じても動かなった身体がすっ…と簡単に動く。自分の意思で操っているはずなのに、まるでコントローラーか何かで操作している気分だ。

俺は手に持った聖剣を構える。


「まずいっ!!」


そこでやっと寄生勇者か動き出す。未知なものだったためか、回避は不可能と判断して俺へと全力で向かってくる。

そんな中、聖剣は等身を伸ばし、先端を大きく湾曲させていた。遠くから見たらその姿は大鎌であった。まあ、近くで見たら歪に伸び、曲がった変な剣であったが。

とはいえ、どんなに歪であっても大鎌なのだ。

俺ならどんなに変であろうと、どんな伝説物であっても大鎌なら使いこなせる自信がある。


「ふっ」


「っ!」


俺は寄生勇者が目の前までやってきたところで、大鎌聖剣を振り下ろした。

すると、目に見えないほど高速な黒い斬撃のような何かが放たれた。


「な、何だよ……。今のは……」


そこで大鎌聖剣の光も消え、目の前には回避が間に合わず右腕と右足を欠損している寄生勇者と、地割れのように大きく深く裂けた地面があった。


「聖剣は闘力を魔力に変えて使えるようにする能力じゃないのかよ」


寄生勇者はそう言いながら前にバタンっと倒れた。


「ぁっ……」


また、俺も魔力と闘力を使い果たし、気持ち悪さで大鎌聖剣も大鎌も手放して地面に座り込む。

目には映らなかったが、俺が手放した大鎌聖剣は普通の状態に戻っていた。


「もう何が何だが分からないぜ。まさか、勇者に乗り移って負けることになるとはな。何で勇者よりも聖剣を使いこなすやつがいるんだよ」


倒れた寄生勇者が痛みを感じさせないような普通のイントネーションでそんなことを言ってくる。ただ、その言葉はほとんど俺の頭には入ってこない。

多くの血を流し、その後にはよく分からない力によって魔力と闘力を空にしたのだ。意識を保っているのかすら自分でも分からない。


「だが、これで勇者以上の逸材を弱らせられた。今なら乗り移れる!その体を貰って、ここは逃げてやるぜ」


寄生勇者がそう言うと、勇者の頭から触手が放たれた。


「はあっ!」

「やあっ!」


だが、ラウレーナとルシエルが呆然と突っ立ていた訳では無い。寄生勇者に遅れはしたものの、追い付いてその触手へと攻撃を仕掛ける。


「無駄だ!このまま体は乗っ取ってやるぜ」


2人の攻撃をヌルッと滑ることで受け流した触手は俺の首筋を突き破って体内に入ってくる。


(いくぜ!そしてようこそ!我が永遠の肉体よ!)


体内でそんな声がしながら何かが入り込んでくる。


(ピギャーーー!!!??)


なんて思っていたら叫び声が聞こえ、入ってきた触手は退散する。


「な、何だ…この体は…。魔力も闘力も内蔵してて何で普通に生きてられる…。空になっているのにここまでとは……」


体逃げ出した触手は既に弱りきっており、干からびたようになっている。


「あ、何だ……。そういうことか。やっぱりおま…貴方様は……」


触手は何か納得したようなことを言うと、先端をこちらに向けてくる。


「今世では気付くのが遅れてこんな結果になってしまいましたが………また会いましょう…」


そこまで言って触手は完全に動くのを止めた。

ラウレーナが慎重に生きた物は入らないマジックポーチに触手が入るのを確認すると、急いでヌルヴィスの治療を始めた。

また、聖女は片腕と片脚を失っている勇者の回復をさせていた。聖女ならば綺麗に切断された四肢くらいなら治せるので勇者も問題無いだろう。


こうして、今回の魔王軍幹部が引き金となったスタンピードは終わりを迎えた。

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