第395話 寄生者の正体

「ゲヘヘヘッ!!」


勇者が汚い笑い声を上げながらやってくる。


「ツイ、サッキマデお前ヲ憎ンデタけド、今ハ感謝スラしてルゾ」


「っ!話せるのか…」


片言ではあるが、勇者…いや、勇者に取り付いている奴は俺に話してきた。


「本体ガ憑いテルグリフォンが呆気ナク殺さレタトキハこんなトコロデ終わりカト思ったゾ。最後ノ悪あがキデ無駄ダドわかってテ勇者ニついてみタガ…」


そいつはそこまで言うと、口を横に大きく開いて気色悪い笑みを浮かべながら続きを話す。


「勇者ガ自我ヲほとんど持たない人形だとハナ!ただノ糸人形だったカラ俺ガ取り憑ケタ!」


「………」


その言い方だと、普通は人には寄生できないが、勇者だけたまたま寄生できたってことかよ。

そして、段々話すことに慣れたのか、言葉が流暢になってきている。まあ、未だに濁った汚い声はしているが。


「しかも!勇者だけあって能力は高い!俺は取り憑いた者の潜在能力を最大まで引き出せる!まさに俺の為に用意されたかのような器だ!」


「なるほどな……」


魔物が妙に強かったのはこいつが力を引き出していたからか。

そうなると、勇者は取り付く相手としては最高で、戦う俺らからしたら最悪だ。

本人が活かせていないだけで、勇者の潜在能力は誰よりも高いだろう。学校長が忠告した追い詰められた時の力をこいつが寄生したことで普通に出せるということか。


「お前は何者なんだ?」


機嫌よくペラペラと話しているため、今なら普通では答えないような質問にも答えてくれそうだと思い、一応聞いてみた。もちろん、答えはかえってはこないと思っていたが…。




「俺は魔王軍幹部、パラサイトのテンタコだ」


「まっ…!魔王軍!?」


答えたくれただけでも驚きだが、その答えが尚更俺を驚かせた。


「俺の得意分野は妨害活動や諜報活動だと言っているのに、前までは取り憑いた者に依存する能力だから雑魚雑魚と他の幹部達から言われていた。……だが、もうそんなことは言わせない!それに勇者を不能にしたのだから手柄は誰にも負けない!」


「…………」


グリフォンに寄生していた時ですら到底雑魚と言えない強さをしていたが、他の幹部達はそれを雑魚扱いできるほど強いのか?


「お前の他に幹部はいるのか?」


「今はまだ居ないんじゃないか?目覚めるのは素の戦闘能力が弱い者からだしな。いたところで魔王様が目覚める頃には俺に手柄では勝てないだろうけどな!」


不幸中の幸い、まだ他の幹部は目覚めていないようだ。

ただ、目の前の奴から魔王まで現れるとの言質を貰った。このことは早く全世界に知らせないといけない。だが、その前に…。


「武器を拾ってどうするんだ?まさか勇者である俺に勝つつもりか?」


「勇者はお前じゃないだろ。寄生しかできない雑魚が」


俺はあえて挑発する。魔王が現れるというのに勇者が大勢を襲うのは世間的に不味い。だからこいつの標的を俺らに固定した方がいい。


「寄生って言うな!取り憑いているだけだ!」


「それを人は寄生っていうんだぜ」


俺の挑発は想像以上に聞いたようで、目を釣りあげながら抗議してきた。


「そもほもお前は俺を殺しかけたから許してないんだぞ?

そんなに死にたいならさっさと殺してやる!この勇者もほんの少しの自我でお前を嫌っていたみたいだしなっ!」


「それは光栄だな。だが、すぐに寄生する相手を間違えたって後悔するぞ」


俺達は言い合いをすると、お互い武器を構える。

俺が動かないため、寄生勇者から動こうとした時だった。


「っ!」


「ととっ…!」


後ろから襲ってきたルシエルの刀をしゃがんで避ける。

そのまま後ろ蹴りを放つ寄生勇者だったが、光魔装をしていたルシエルはその能力でそれを避ける。


「はあっ!」


移動したルシエルの後ろから高速でラウレーナが突っ込んできた。ラウレーナはルシエルの真後ろに水の線を付けていたのだ。


ガンッ!


「痛っ!」


勢いよく向かってきたラウレーナの拳を聖剣で受けると、勢いに押された寄生勇者は1mほど後ろに足を引きずりながら下がる。


「しっ!」


「俺を1度殺したその攻撃は警戒対象だぞ」


俺の振った大鎌を寄生勇者は左手で持った聖剣で受け止める。まさか、片腕で受け止められるとは思っていなかった。また、受け止めただけでなく、俺の大鎌を弾く。


「3対1か!いいぜ!かかって来いよ!体に慣れるついでに皆殺しにしてやるぞ!」


「残念!6対1よ!」


そんな俺の後ろからシアが寄生勇者へと向かって飛び出した。

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