第391話 作戦通りに
「肝心のグリフォンは……」
「見えないね」
俺達だけが城壁の上にいる理由は飛んでいるであろうグリフォンを目視で真っ先に発見するためだ。それなのに、俺達の目にはグリフォンは映っていない。
「く、来るぞー!」
「ま、まだだったよな!?」
「ひぃっ!?」
城壁の下では集まっている冒険者達が騒ぐ声が聞こえてくる。普通の冒険者はこんなに大量の魔物が向かってくるのなんか見た事ないだろうから、慌てるのは仕方がない。だが、作戦があるから動かないではもらいたい。
「おっ」
魔物達まで残り数百mというところで遠くからでもわかるほどの魔法を使うべく込められていく多量の魔力を感知した。
「おおっ!」
「これを受けたら僕でも倒れちゃうな」
「余では到底この威力は使えんのじゃ」
上空に現れた巨大な燃え盛る岩が魔物達の中心に落下する。
轟音の後に遅れて衝撃波がやってくる。
今の衝撃で魔物の動きが止まり、上からだと魔物の群れに穴ができたのがよく分かる。
「突撃ー!!!」
「「「おぉぉぉ!!!」」」
そして、リーダーからの突撃の合図で冒険者達は動きを止めた魔物へと向かっていく。
こうして街の危機であるスタンピードとの衝突は賢者のほぼ全魔力が込められた魔法から始まった。
賢者の魔法が想像よりも影響があったので、予定よりも作戦はスムーズに進むと思われていたが…。
「な、何だ!?」
「があぁぁ!!」
「は、速っ…ぐあっ!」
「何…??」
やられる冒険者の数が多い。基本的に冒険者ランクと同じか下の魔物しか戦わないように采配はしたはずだ。
倒れる者が多く、現場は混乱する中、上から見ていた俺達には何が起こっているか気付いていた。
「気を付けろ!魔物らは通常よりも強くなっている!!」
俺は城壁の上から下にそう叫ぶ。何人かこちらを見るが、見てないで魔物の相手をしてくれ。
それはともかく、明らかに魔物らの動きが普段よりも良い。基本的に1つか2つほどランクが上に感じる。
C-ランクがC+ほどの強さがあるのはまだいいが、C+ランクはB-ほどまで強くなっているのだ。
基本的にランクの文字が変わるとガラッと強さが変わるのにも関わらずだ。
「僕達も加勢に行く?」
その様子を一緒に見ていたラウレーナがそう訪ねてくる。ルシエルも俺の方を見てどうするかの判断を求めている。
「……止めた方がいいな」
悩んだ結果、俺はそう結論付けた。
魔物が強くなっている。それはきっとまだ姿が見えないグリフォンも同じだろう。A+ランクが下の魔物のように強くなったらどうなるかは考えたくない。
俺らが下に混ざれば今よりは下に余裕が生まれるだろうが、グリフォンへの対応が遅れるのは確実だ。その少しの差の時間でグリフォンがもたらす下への影響を考えたら動かないのがベストだ。
「その代わり、グリフォンは俺達で抑えるぞ。周りには何もさせないぞ」
「そうだね」
「じゃな」
俺達はそんな決意を胸に、グリフォンの警戒をしつつ、下の者達を見るのだった。
「怪我した奴らは街の中に一旦入れ!」
「交代だ!お前らは一旦下がれ!」
最初の魔法から1時間弱経ったが、まだ魔物は半分も減っていない。しかも魔物は低ランクから倒れて行くので、だんだんとこのペースは遅くなるだろう。
「リーダーの人選は間違ってなかったな」
リーダーは魔物が強いと分かると、低ランクを下がらせた。そして、必ず自分達よりもランクが下の魔物を当るように徹底させた。
また、下がらされた低ランクは補給係に加わった。
だが、人数が少なくなったぶんしわ寄せがくるわけだが、その影響は高ランクほど強くなる。
そんな中、1番苦労しているパーティは上から見ると明白だった。
「はあっ!!」
「やあっ!」
上でも聞こえるほどの声を上げながら戦場を縦横無尽に駆け回っている者がいる。
「ここは私が何とかするから早く下がってなさい!」
その者は庇ったものにそう言う声が上からでも微かに聞こえてくる。
そう言ってるのは勇者だった。低ランクしか相手する予定じゃなかった勇者らだが、今では強化されて強くなっているはずのCランクすらも高速で狩りまくっている。
勇者らだけで魔物の半分以上は殺っている。その分、Bランクの討伐は無いけどな。
「騎士らとの戦いをされたら…と思ってたが、無用な心配だったな」
心境の変化か、冒険者と騎士での違いかは分からないが、勇者らは冒険者を守るように押され始めたところに向かって助太刀をしている。
魔物に押し込まれないのは勇者らの活躍と言っても良かった。俺の中で少し勇者への印象は変わった。
だが、そんなふうに下を観察していられる時間は終わりを告げた。
「さて、やっと出番か」
「ギュウエェェ!!」
濁った汚い雄叫びをさせながら空を飛んでこちらに向かってくる姿が見えた。
「行くぞ!」
俺達はやってきたグリフォンを迎え撃つべく走り出した。
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