第390話 役割

「配置は………」


リーダーが決まってからはどこに何人配置するかを話し始めた。基本的に攻め入ることはせず、向かってきた時の対策を考える。

その1番の理由は攻め入る程の戦力が無いからである。怪我人を城壁の中に入れられる場所で戦うのと、逃げ場がないと言っていい森の奥で戦うのでは訳が違う。守るのと攻めるのを比べると、必要な戦力が何倍も変わってくる。

また、時間が経てば経つほど戦力は集まるので、自分達から攻める理由はほぼ無い。


「ここに大体150人ほどか」


ちなみに、配置に関しても決めるのは大雑把である。正直、量よりも質が重要なのだ。だから言ってしまえば高ランク以外は特に個人やパーティを区別せずに分けることになる。もちろん、高ランク以外でも突出した実力者が居れば話は別だがな。


「ここには念の為Bランクは1パーティは欲しいね」


「いや、そこにBランクを持っていくのは勿体ない」


取り合いになるのはBランク以上だ。とはいえ、険悪なことにはならず、大体均等に割り振る。基本的に警戒すべきは魔物達が向かってきた方面の城壁だけでいいからな。


話し合いが1時間弱ほどすると、ほとんどの者の配置が決まった。決まっていないのはこの場にいるAランクパーティ3つとカラゼスらと勇者らだけだ。


「リーダーとなる私らは全体の指揮をとるからやや後方の方にいることになる。もちろん、状況によっては前線へと出るけどね」


「それなら俺は最初から前線で魔物を薙ぎ倒して士気を高めてやる」


そうなところでAランクパーティの2つが配置を決めた。


「俺らも前線で魔物を狩るぜ。それでこの街で冒険者をやってた奴らを引っ張っていくことにする」


その流れに乗ってカラゼスも配置を決めた。カラゼスの案を断る者は居なかった。

これで決まっていないのは俺らと勇者らだけになった。


「私が元凶であるグリフォンを仕留めるわ」


「「「………」」」


その発言に誰も何も言えなかった。

ただ、この時の周りの意見は一致していた。



(こいつにそれは任せられない)


別にその理由は勇者の実力不足ではない。その理由はこれまでの情報を聞いた上で魔物の中で唯一のAランクとはいえ、元凶と断言する頭の悪さ…思い込みの強さだ。

全ての魔物に共通して頭に触手のようなものが生え、多種多様な魔物が集まっている。そんな特殊な状況でグリフォンが元凶と思っている者は勇者以外に誰も居ない。グリフォンにそんな変な特殊能力は無い。


「俺らがやる。俺なら空を移動できる術がある。だから空中に上がったグリフォンに一方的にやられることはない」


「わかった。グリフォンはお前らに任せるね」


「ちょっと!」


勇者が文句を言おうとするが、それをルイとシアが後ろに引っ張ることで黙らせる。


「何か分かったらグリフォンは最悪放置で伝えに来て」


「ああ」


グリフォンを相手する者に求められるのはもちろんグリフォンを殺ることだが、何よりも今回の原因を突き止めることだ。それが分かっていない勇者にこの役目は任せられない。


結局その後の話し合いで勇者らはその場に応じてランクが低い魔物の場所に割り振られた。

とはいえ、雑魚でも密集されたら動きが取れないため、数を減らすのは重要な役目ではある。

ただ、勇者の役目かと言われたら首を横に振るだろう。まあ、討伐数だけは誰よりも稼げるポジションだからメンツ的にはギリギリ何とかなるだろう。


その後、陣形の確認や、罠や障害物の設置などを行って慌ただしく動いた。

そして、リーダーが決まった会議から5日経った早朝、ついにその時の知らせがやってきた。



「魔物が動き出した!移動先は予想通りこの街!低ランクに合わせてるからペースはそこまで早くない。でも1日後には街までやってくる!」


「……ついにか」


魔物達を見張っていたナユを始めとする隠密部隊が帰ってきてそう報告をする。

ついにスタンピードが始まる。とはいえ、準備はやってきた。全員が意気込みながら次の日の早朝に街の外の城壁の前に並んだ。



「数は魔物の方が多いな」


唯一城壁の上にいる俺らからは砂煙を上げながら向かってくる魔物の群れが見えてきた。

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