第389話 スタンピード

「詳しく聞かせてくれ」


「…わかった」


ギルド内の全員が絶句している中、ナユから詳しい話を聞く。

その結果、集まっていた魔物はBランクやCランクの他にDランクやEランクなども多くいたそうだ。目算のでは、魔物は1000体以上は集まっていたそうで、その魔物のランクB、C、D、Eの比率は大体1:2:3:4程だったそうだ。比率的には低ランクの方が多いが、全体で1000体以上と考えると、Bランクだけで100体も居ることになる。


また、何よりも気になるのが頭から生えている触手だ。これは見ただけでナユ自身も何も分かっておらず、ただうねうねと動いていたそうだ。



「何かに操られているのか?」


集まっているのを加味すると、そうとしか考えられない。


「人の姿は?」


「それは無かった」


俺の質問にギルド内に緊張が走るが、ナユの答えでその緊張は解かれる。

人間が操られるということは現時点ではないようだ。


「話は聞かせてもらいました」


「ん?」


ギルドの奥から少し腰の曲がった初老の老人が歩いてくる。手には杖を持っており、魔法職っぽい見た目である。


「今すぐ近隣のギルドに支援要請を!近々この街にスタンピードが起こると想定しなさい。

しかもここで止めないと近くの街や国は重大な被害が出ると思われる。

住人の避難も同時進行で行え。冒険者は緊急依頼だ!」


「「「ギルド長!かしこまりました!」」」


その人がギルド長だったらしく、そこからは冒険者、ギルドの受付も含めてみんなが慌ただしく動き出した。

スタンピードとは何らかの要因で種類を問わず魔物が大量に向かってくることである。魔物が集まっているのならスタンピードがいつ起こるか分からないため、ここからは全てが時間との勝負である。


幸運にも、3日経っても魔物は動く様子を見せなかった。そのため、Eランクが護衛をしながら住人のほとんど避難できた。頑固な老人などは動かないとほざいていたが、無理やり乗せてでも少し遠くの街まで移動させた。勝手に死ぬ分には構わないが、足でまといになられても困るからな。


また、冒険者についても近くから多くが集まってきた。ちょうど勇者が参加しようとしていた大会の出場予定者も何組も集まってくれた。



「スタンピードに備えた会議を始める」


そして、そのタイミングでスタンピードに対する作戦を練るための会議が始まった。

参加メンバーはギルド長、俺ら不撓不屈の魂を含むAランクパーティ3つと勇者パーティ、さらにこの街に来て長い刹那の息吹だ。


「まず、この戦いのリーダーを決める。儂は歳的に前線に立ってあれこれ言えない。だからこの場で現場で指揮するリーダーを決めなければならない」


「それなら勇者であり、貴族でもあるこの私が…」


「却下だ」


勇者が何かほざこうとしたが、すぐに却下する。何百人もの生死がかかった現場での指揮をこいつに任せられるわけが無い。


「俺ら以外のAランクパーティ2つのうちのどちらかに任せるのが1番だと思う」


勇者が俺に文句を言う前に俺はそう発言をする。

すると、推薦されたAランクパーティが少し目を見開く。


「リーダーを勧めてくるとは思わなかった」


「俺が大人数のリーダー向きでは無いのは自覚してるからな。そんな経験は無いし」


勇者を却下して自薦でもすると思ったのか?

俺は誰かを指揮しながら戦闘を行ったことがない。そんな者に指揮されたら勝てるものも勝てなくなる。だが、Aランクでもベテランそうな2パーティなら俺よりはその経験はあるだろう。


「指揮の経験なら私だっ…」


「それに俺は狩るのに尽力したい。あわよくばグリフォンを狩りたい」


「なるほど」

「そういうことね」


勇者の発言を遮って話した俺の言葉にAランクパーティはどこか納得したような顔で頷く。

別にAランクとしての実力が無いからリーダーになりたくないといって訳ではないし、何か裏があってなりたくない訳でもない。


「それならリーダーは私がやろうかな」


「それなら任せるぞ」


「ちょっ…」


「決まりだな」


2つのAランクパーティは面識があったのか、片方が立候補し、もう片方がそれを了承して今回のリーダーは決まった。

勇者が何か言いたそうにしてたが、俺に無様に負けた手前何も言わなかった。

また、そんな勇者に声をかける者は聖女以外にいなかった。だが、いくら聖女でもAランクパーティ3つとギルド長が了承したことに文句を言うほど図太くなかった。だから勇者にフォローの声をかけるのみだった。

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