第388話 異変とその原因

「……」


シアとも和解したあの日から5日が経った。

勇者に関してはあれから会うことがなくて一安心である。さすがの勇者もあんなに息巻いておいて面前で一撃で倒されておいてすぐに挑みにくるほど馬鹿ではなかったか。

いや、行こうとしてルイとシアに止められたのかもな。



「これはいよいよ不味いかもしれない」


そんないいことだらけのように思える中だが、大きな問題が起こっている。


「魔物が居なくなった」


シアらと会った日も魔物の数が減っていることは気になった。だが、今日はそんなレベルでは無い。

急激に減り続け、今日は午前中で魔物を1体も見ていない。昨日でも午前で群れを2、3回は見ているのにだ。


「森の奥に行くか?」


魔物の死体などは見ていないからどこかには居る可能性が高い。可能性として森の奥に居る可能性が1番高いと思われる。


「いや…駄目だな」


俺はその自分の提案を却下する。森の奥にそれほどの魔物が集まっているならそれだけ危険度はかなり高い。

さすがの俺らでもC、Bランクの魔物が何百、何千と集まられたら勝ち目は薄い。また、この不可解な現象を起こしている何かしらもいると考えたらそんな危険は犯せない。

俺達の中で隠密行動に優れている者がいる訳でもないしな。


一応その後も魔物を探し続けていたが、1体も見ることはなかった。異常を感じつつも俺達は街に帰った。



「魔物が1体も居なかったぞ!」

「俺もそうだった!」

「おい!大丈夫なのかよ!」

「逃げた方がいいんじゃねーか!?」

「お、落ち着いてください…!」


「まあ、そうなるよな」


ギルドに寄ってみたが、ギルドの中はかなり荒れていた。今日の様子をみんな知っているのだろう。

とはいえ、ギルドの受付に詰め寄ったところでこの事態は何も解決しない。



「落ち着けっ!!」


「「「っ!!」」」


そんな中、声を張り上げる者が1人居た。


「騒いだって何も解決しないぞ」


「あ、兄貴…」


「兄貴じゃないって言ってるだろ」


その者はここの冒険者から兄貴と慕われているカラゼスだった。


「今、俺のパーティのナユが森の奥へこの異変の探索に行っている。だからナユが報告に戻ってくるまではとりあえず落ち着け」


「「「は、はい!」」」


ギルドであれだけ騒がしくしていた者達が頷き、それぞれギルド内の椅子に座り出す。

そんな中、座っていない俺達に視線は集まる。


「ナユ1人に任せたのか?」


「あ、兄貴!」


「「「兄貴!?」」」


カラゼスに話しかけると、カラゼスは俺の居ることに気付いていなかったのか驚く。

また、兄貴と慕っているカラゼスが俺を兄貴呼びしたことに周りは驚く。


「…兄貴には恥ずかしいところを見せましたね」


「いや、格好良かったぞ。今のはお前の人望がなせる技だ」


カラゼスの人柄があってこそできたことだ。俺が同じことをやっても若僧が何言ってんだ!?っとなるだけだ。年上にも兄貴と慕われるカラゼスだからできたことだ。


「俺達が居ると邪魔になるからナユ1人に任せたんだ。ただ、もし危険と感じたら調査が不十分でも帰ってくるようには言った」


「まあ、妥当な判断だよな」


ナユ1人の方が隠密的にはいいかもしれない。ただ、もし隠密が見破られた時にナユ1人ではどうしようもない。


「何時に帰ってくる予定なんだ?」


「どんなに遅くても今日中には帰ってくると言ってた」


成果が出ようが、出まいが、今日中には帰ると言ったそうだ。逆に今夜中に帰ってこなければ、その時ナユはもう…。


「なら今日中帰ってこなかったら俺らが見に行く」


「っ!ありがとう兄貴!」


どうせ誰かがこの異変の調べなければならないのだ。ナユ以上の隠密使いが居ない以上、ナユが無理なら俺らが危険を承知で行くしかない。

早く行ければまだナユが生存している可能性はある。


「兄貴の兄貴?」

「確か、Sランクに直接名付けられたAランクの至極の死神だったか?」

「しかもこの前勇者をワンパンしたそうだぞ」

「兄貴の兄貴ってなら俺らからしたら大兄貴か?」


「………」


何か不穏な会話が他所から聞こえて来るが、今は一旦無理だ。なぜなら、気配感知に反応があったからな。


「はあ……はあ…た、ただいま…」


「ナユ!」


ナユが無事に帰ってきたのだ。ただ、息はかなり上がっており、流石に疲れたようだ。


「どうだった?」


「森の奥にCランクとBランクの魔物がうじゃうじゃ居た」


「「「………」」」


最悪な結果にギルド内の全員が口を閉ざす。この結果は今回のことから想定しうる最悪と言ってもいい。なぜなら、居なくなった魔物は散った訳ではなく、集まっていたのだからな。



「それだけじゃなくてグリフォンの姿もあった」


「「「………」」」


追加の報告でほとんどの者の顔が青くなる。最悪よりも悪い結果だ。

グリフォンとは鷲の前半身に、獅子の後半身の姿をした空を自由に翔ける魔物である。そのランクはA+ランクだが、グリフォンはワイバーンと比較にならないほど強い。きっと空を飛べなくてもA+ランクになっていたぐらいにはだ。

何が問題かと言うと、風魔法のような風を操った攻撃と毒がある前足の鋭い爪である。この2つの武器でグリフォンは接近戦と遠距離戦どちらも対応可能だ。その上でワイバーン以上の対空能力がある。

海竜のようなSランクが規格外なだけで、十分Aランク+の中ではトップクラスの強さである。

正直、俺らでも相手にしたいとは思えない。


しかし、ナユの話には続きがあった。


「集まっていた魔物の頭から変な触手?が生えてた」


この問題の原因であろうものをナユは最後に話した。

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