第387話 謝罪と思わず

「成果も無しか」


帰り道で俺はそう呟く。

勇者に絡まれた後に向かった調査でも成果は無かった。だが、何も無かった訳では無い。


「魔物の数が減っていたな」


毎日何体討伐しようが、増え続けている勢いだった魔物の数が急に減っていたのだ。

感じて分かるほどなので、1/4ほどは減っている気がする。




「よっ」


「ん?ルイか」


もう少しで街に着くというタイミングで木の影からルイがひょこっと出てくる。

一瞬気配感知で勇者の姿を探すが、どこにもない。


「勇者は宿だから安心して。念の為隠れてもいたし」


「それは良かった」


また絡まれるのは面倒だったから勇者が居ないのは良かった。

しかし、木の影に隠れていたのは勇者達から見つからないためだったのか?


「なんでこの街に居るんだ?闘技大会?に出るんじゃなかったのか?」


俺は1番気になっていたことを聞く。


「開催までまだ日数があるからそれまではこの街で魔物を狩れって言われた。出来ることなら原因を解決して勇者に箔を付けろって」


「あーー、なるほど」


勇者がこの街に来た理由は良くわかった。勇者が来ただけであんだけ盛り上がったのだ。解決出来なくても勇者を向かわせた者への人々の評価も高くなるだろうな。


「それなら、今日の出来事は…」


「かなりやっちゃったねって感じ。ちょっかいかけておいて一撃で終わりだからね。相手が今話題のSランクに名付けられたAランクってことが唯一の救い」


それはしまったな。そんなことならルシエルにやらせるべきだった。ルシエルならラウレーナと似たステータスとして光魔装を使えば勇者程度の攻撃は当たらない。何度も避けてから隙を狙って一撃で仕留めるっていうのも面白かった。

見下した奴隷にやられるというのも良かったな。



「さて、そろそろ後ろのそれを聞いていいか?」


「むしろ早く聞いて欲しかった」


前から気になっていたことが聞けたので、今一番気になることを聞く。

ルイの後ろで小さくなって隠れている者が居る。小柄なルイの背では長身気味のシアは隠れ切ることはできない。


「シアが会いたいって言ったから来たんだから」


「そ、そうだけど、ルイも来たがってたじゃん!」


ルイがシアを前に出そうと引っ張るが、物理職のステータスを無駄に発揮して踏ん張ることで前に出てこない。


「燃え尽き、硬くなれ…」


「わっ!わかったから!!」


しかし、ルイが無表情で魔力を練りながら詠唱を始めると、シアは慌ててルイの横に出てくる。複合魔法とは本気でやる気だったな。


「あ…えっ…」


しかし、出てきたはいいが、目は泳ぎまくり、言葉は出てこない。

だが、俺はシアを見詰めて落ち着くのを待った。少ししてシアは話し出す。



「……ごめんなざい!今までのヌルヴィスへの態度はすごく酷かった!幼馴染に対する態度じゃなかった…。ただ剣聖って職業を授かっただけで私が偉い訳でもなんでもないのに…。色々と勘違いしてたの!

本当にごめんなさい!何でもするから二度と関わらないっていうのを撤回して欲しい!

でももし、嫌だったらもう二度と関わらないから…!」


シアは号泣しながらそう言い、頭を深く下げる。


「ルイに送った手紙で前の性格が戻ったのは知ってるし、ルイを通じた手紙でも許すって書いただろ。だからもうその約束も撤回でいいよ」


「本当?」


顔を上げて再度心配そうに尋ねてくるが、俺は大きく頷く。前のゴミのような性格が治ったのなら関わらないというのは撤回して構わない。


「ありがどゔ!!」


「わあっ!鼻水が付く!」


感極まったのか、シアは抱きつこうとしてくるが、涙だけでなく、鼻水もすごいのでシアの額を手で押えて止める。


「何で止めるのよバカー!!」


「今のシアならルイでも止める。それと、何でさりげなく抱きつこうとしてるのよ」


そんなシアをルイが止める。

なんかこの感じは村に居た時と似ているな。活発な俺とシアがバカをやってそれをルイが冷たい目で止める。

久しぶり3人揃ってこうしたことができた。

シアが落ち着くまでそうやってバカをやって時間を潰した。




「でも、何でシアまで性格が治ったんだ?」


「それは……」


「?」


シアは俺の質問で1回ラウレーナを見る。そして、そのまま理由を話し出した。

結論としては、俺らのいた道場で現実を知ったからだそう。

道場に入った当初は闘装を取得している年下の兄弟子達にすら勝てず、師匠からは片手であしらわれるほどの子供扱いと何十ものダメだし。

しかし、それでも闘装を取得してないからだと思っていたそうだ。しかし、早々に闘装を取得しても、ステータスが圧倒的にしたであるはずの年上の兄弟子達には未だ勝てない。また、師匠との差は全く埋まらない。

そんな環境の中、1人の孤独だったことでやっと現実と向き合うことができたそうだ。



「ただ、最終的には師匠には模擬戦で勝ってきたぞ!」


「なっ!」

「うそっ!?」


俺とラウレーナは顔を見合せて驚く。師匠であるラウレーナのおじいちゃんに模擬戦で勝つ?当時の俺では絶対にできなかったことである。

そこまで努力をしたのは素直に尊敬できる。



「……なあ、勇者パーティから抜けないか?」


「「「「っ!」」」」


「ん…?えっ!?」


俺の提案に4人が驚く。ついでに俺も驚いた。

そんなこと言うつもりはなかった。そんなこと考えてすらいなかったのにボソッと勝手に口からこぼれ出てしまったのだ。



「……ごめんね。それはできないの。契約で学校に通わせてあげる代わりに勇者と同行するっていう契約もあるけど…」


シアはそこまで言うと、ルイと顔を合わせる。そして、2人は揃って俺の方を向く。


「ルイ達は2人のことが嫌いじゃない」


「2人も私達と同じで職業のせいで振り回された可哀想な子なの」


ルイとシアが続けてそう言う。

そして、声を揃えてはっきり力強く言う。


「「だからパーティは抜けない」」


「そっか……」


決意がそこまで固まっているならもう俺からは何も言えないな。


「もちろん、勇者とは会わせないように行動するつもりだから安心して」


「だからあんまり会えないけど、お互い元気に頑張ろうね!」


2人はそう言うと、街の方に歩いて行く。俺はその背を突っ立ったまま見詰めていた。



「俺らも帰るか」


「そうだね」


「じゃな」


2人の背が小さくしか見えなくなったところで、俺達も街へ帰ることにした。

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