第385話 今後と…

「ん??」


いつも通り、異変の手掛かりを求めて森に入り、何の成果も得られずに帰ってきた時だった。

何か街の様子がいつもと違く、違和感を感じた。


「盛り上がってる??」


ラウレーナの言う通り、どこかいつもよりも街が盛り上がっているように感じる。基本的に普段から騒がしいような街だが、今日はいつも以上だ。


「何かあったようじゃな」


それは街の中へ進むと更なる盛り上がりを見せている。ここまで来ると何かあったのがほぼ確定した。


「まさか……」


1番先に思い浮かんだのが街周辺の異変の原因が分かったこと。長年分かっていなかったそれが分かったのならこの盛り上がり方も納得である。

ただ、それだと先を越されたことになるので悔しい。



「何かあったのか??」


このままでは埒が明かないので、近くに居る街の人に話を聞くことにした。

そこで、想定外で俺からしたら最悪な話を聞くことになる。


「ああ、勇者一行がこの街へ異変の調査に来てくれたんだ!勇者が来てくれたなら安心だよな」


「なっ……!?」


「「え??」」


頭が一瞬真っ白になる。思考を取り戻して考えたのは「何でだよ!」だった。

勇者を避けるためにわざわざこの街に来たのに何で勇者の方からやってくるんだよ!


「そんなに嬉しいなら今はまだ冒険者ギルドに居ると思うから会いに行ってみれば?」


「あ、ああ……」


勇者の情報を教えてくれた人は、俺が固まっているのを嬉しいからと勘違いしたようだ。

適当に相槌を打つと、その人は離れて行く。


「………今すぐ宿に帰るぞ」


「「う、うん」」


俺達は勇者に遭遇しないようにできるだけギルドから遠回りをして宿まで帰った。



「ど、どうする……?」


宿の中で俺は頭を抱えて考える。

勇者が来ると聞いていたらこの街には来なかった。それなら来たなら出ていくという選択肢もある。

だが、ここでカラゼスらとも再会してスキルを教えあっている。それに、調査中のやつをここで放り出したらこれまでの努力が無駄になる。


「んーー……」


いくら悩んでも答えが出ない中、ラウレーナが俺に話し始める。


「ヌルヴィスがしたいようにすればいいと思うし、僕達はリーダーであるヌルヴィスの指示には従うよ。

でもね。勇者が居るところを避けるために行き先を変えるのは分かるけど、勇者が来たから逃げるのって格好悪くない?」


「うっ……」


ラウレーナの言葉が俺にクリーンヒットする。確かに勇者からコソコソ逃げるのはまるで犯罪者のようである。あくまで俺は何も悪いことをしていない。


「これからも勇者から逃げ続けるのか?それは面倒じゃないか?」


「うぐっ………」


一々勇者の動向を把握して、近付いてきたら逃げるように街から去る。ルシエルが言うようにその生活は面倒である。

何より、そんな逃亡生活のような物は俺が憧れた自由な冒険者では無い!


「よし!勇者は気にしない!この街からも移動はしない!」


「僕もそれがいいと思うよ」


「余も魔物の変化の原因を明かしたいと思っておったからな」


俺の決定に2人が賛成してくれた。2人も内心ではまだこの街に残りたいと思っていたのだろうな。


「俺達は普段通りに過ごすぞ。顔を隠したりもコソコソもしない。仮に勇者と遭遇したとしても、知らないフリだ」


「「はーい」」


今日のように勇者と遭遇しないように避けて移動したりはしない。もし遭遇したらその時だ。

それに勇者が俺の事を覚えているとも限らないからな。むしろ、1年以上前のことだから忘れていても不思議ではない………




「あ、あんたっ!」


「………」


次の日の朝早く、早速勇者と遭遇した。勇者は完全に俺を指さして声を掛けてきた。完全に覚えているな。また、その横では俺を睨み付けている聖女までいる。こいつも完全に覚えているようだ。


ちなみに、その横では目を見開いて驚いた様子の賢者のルイと、同じように驚きながらもルイの背中に隠れようとしている剣聖のシアも居た。


「さて、行くか」


「えっ…!ちょっ…!」


決めていた通り、勇者を無視して俺達は街の外へと向かう。


「待ちなさいよ!」


「うげぇ…」


しかし、勇者に肩を掴まれて強制的に止められてしまった。ルイとシアが勇者を懸命に止めようとしていたが、無駄だったようだ。

肩を掴んでいる手を振り払おうにもかなり力が強い。素のステータスは俺よりも上かもしれないな。勇者だから1レベル当たりの上がり幅も凄いのだろうな。

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