第382話 足りない役目

「轟け!」


「「っ!」」


俺は向かってくる2人を他所に詠唱を始める。もちろん、狙いは2人では無い。


「サンダーランス!」


俺の魔法は2人の間を抜け、一直線に回復魔法使いであるルフエットへと向かう。

ヒーラー兼バッファー彼女は最優先で狙うべき相手だ。彼女さえ倒せれば後はそう難しくない。


「ファイアウォール!」


しかし、それは前もって詠唱して準備していた火魔法の壁に止められる。だが、【魔攻】でもスキルレベルでも込められた魔力量でも俺の魔法が上だろう。そうなると、リリラの魔法は突破される。


「外したか」


しかし、火の壁で俺の魔法が止められている間に2人は移動しており、俺の魔法は避けられた。


「「はあっ!」」


その間に俺に接近していた2人は俺に攻撃を仕掛けてくらる。それを防御しながら俺は考える。


(空中から魔法を連打するだけで勝てるな)


無属性の足場を使い、空中からルフエットを狙って魔法を使っているだけで勝てるだろう。

それもこれもタンクが居ないからである。魔法使いや優秀なヒーラーが居るなら1人くらいはタンク役が欲しいところである。

とはいえ、今回はそんな勝ち方はしないけど。


「っ!」


2人からの攻撃を捌いていると、危険感知が反応する。それはその方向に全力で大鎌を振る。


「うぐっ…!」


「ナユっ!」


俺の大鎌を受け止めたナユはぶっ飛んで行く。

防御と攻撃が低めの盗賊のナユでは俺のかなり重い大鎌を受け止められるわけが無い。

ナユはぶつかった木をへし折って止まったが、倒れたまま動かない。


「このっ!」


「痛っ……」


ナユに大鎌を全力で振ったせいで好きができ、カラゼスの直剣で斬られる。主に当たったのは防具の部分だったが、防具の無い場所にも当たったので少し血が流れる。

だが、今は2人に構っている暇はない。ルフエットがナユを回復しようと動いているのだ。


「はあっ!」


「ルフエット!!」


俺の大鎌から放たれた闇の斬撃がルフエットへ当たる。さすがに無詠唱での魔法は警戒していなかったようだ。


「シールド」


「なっ!」


再び隙をついてきた攻撃を無属性魔法の盾で受け止める。俺の防御力ではエルミーが突き出してきた長槍は防具の隙間なら普通に刺さる。それはさすがに避けたい。


「ファイアスピア!」


ルフエットがダウンし、守る必要が無くなったリリラが火の矢を3本放ってくる。

それぞれは別々の軌道で俺に向かってくる。また、今回はカラゼスとエルミーは俺の傍から離れてない。


(どうする!?)


俺は表情には出さないが、内心で焦っていた。まだ魔法が1つならいいが、3つ別々な軌道で向かって来てるのをバフが無くなったとはいえ、2人の攻撃を捌きながら全てを避けれはしない。


「らっ!」


「うっ…!」


作戦を決めた俺は前蹴りをカラゼスに放つ。カラゼスは前屈みになるが、一旦放置だ。


「うらっ!」


「がほっ…!」


次に俺の大鎌がエルミーの脇に当たり、エルミーが吹っ飛ぶ。魔法が放たれてから動きが少なくなったから2人に攻撃を当てやすくなったな。


「ぐっ……!」


そして、俺に魔法が2弾命中する。俺は火魔法を全て避けるのは諦め、先に2人を倒すことを優先したのだ。防御力の低い俺が普段全くしない戦法である。1つの威力の弱いスピアだからできたことである。


「よっ!」


「かっ…」


魔法を耐えた後は目の前のカラゼスを気絶させる。これでもうリリラとの1対1に……。


「っ!?」


「ちゃんと警戒してたぞ」


まだ残っていたナユが攻撃してくるが、それをひょいっと避ける。

あの時気絶していたかは分からないが、気配感知からナユが消えたのは気付いていた。そして、バフが無い以上警戒していればナユの攻撃は避けられる。


「はっ!」


「おぼっ……」


ナユの腹を殴り、今度こそ気絶させる。


「ファイアランス!」


ナユとの交戦の間に再び詠唱をしていたリリラが魔法を放ってくる。


「はあっ!!」


しかし、それを闇魔装で防ぎ、それからダッシュでリリラへと向かう。


「降参よ。参った」


「勝者ヌルヴィス!」


「ふぅ…」


普通に早く回復したいくらいには火傷と切り傷は負っているが、勝つことはできた。

だが、もしこのパーティにもう1人タンクが居たら話は大きく変わる。その役目がいればもっとリリラは魔法を打てる。また、ルフエットが倒されることが無くなるため、気絶した者も回復されて復活することにもなる。そうなると、俺が勝つのは一気に難易度が変わる。

それはともかく、5人の成長には驚いた。魔力を使わなかったらまず勝つのは無理だろうな。それこそ空中で無属性魔法を使いまくるくらいしか勝機すらなかった。

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