第373話 心配

「オレハマダシンデナイ…!」


頭だけになった彩化が牙をガチガチ動かしながら俺にそう言ってくる。


「カナラズオマエヲコロス!」


そして、その牙はゆっくり俺の首へと近付き、首を挟み切ろうと……。




「はあっ!」


俺はベッドから飛び起きる。首を触るが傷1つ無く、もちろん俺の傍に彩化の頭なんてない。


「夢かー…」


俺は再び横になる。こんなに最悪な目覚めは初めてだ。


「また生き返るなんて絶対に無理だ」


彩化がどうやって死して別の個体に転移したかは分からないが、そう何回も連続してやれるわけがない。それが出来たとしたらそれはもう不死身と言ってよく、殺す方法がなくなる。

おとぎ話に出てくるレベルのSランクをも超える可能性のある魔物では不死身と呼ばれるのもいるが、その領域に彩化が至っていない。


「悪夢の原因は普通にあの戦いだよな」


こんな悪夢の原因は彩化との戦いが原因だとすぐに分かる。何度も痛めつけられて心が折れる寸前までいったのだから悪夢の1つでも見てもおかしくない。

その原因を作った彩化も急に来たSランクにパパっと殺されてしまったしな。

きっと俺の中でまだ彩化は死んだと思えていないのだろう。



「で……ここはどこなんだ?」


周りを見渡すが、ベッドは1つしかなく、この部屋にいるのは俺だけだ。もちろん、この部屋にも見覚えは無い。


「とりあえず出るか」


どこかを知るためにも俺は部屋の外に出ることにした。


「へっ……あがっ…」


ベッドから降りたのだが、上手く立てなかった。というか、あまり身体に力が入らない。


「ス、ステータス!」


すぐにステータスを表示するが、ちょこちょこ変化しているが、今の状況と結び付くのはない。



「じゃあ、何で力が……?」


上手く立てない理由がわからず、放心していた時だった。


ドタドタドタ!!


この部屋へと向かってくる素早い足音が聞こえてきた。


「ヌルヴィス!」

「主!」


「おっ、2人とも」


やってきたのはラウレーナとルシエルだった。

2人がこうして無事な事に安心した。

しかし、そんな俺の心情は無視して、2人はベッドから落ちて座る俺に勢いよく抱き着いてきた。


「え…え??」


状況が理解できないが、とりあえず力強く抱き着いて鼻をすする2人の頭を撫でて落ち着くのを待った。



「それでどうしたんだ?」


10分以上が経ち、やっと2人が落ち着いて俺から少し離れることが出来たので、この行動の理由を尋ねる。


「だってヌルヴィスは1ヶ月以上も眠ってたんだよ」


「余達も5日間寝てたらしいが、主とは比べ物にならんのじゃ」


「はあっ!?」


さすがにそれには驚きだ。まさか、1ヶ月も寝ていたとは思っていなかった。

しかし、何でそんなに眠ったのだろうか?彩化にやられた傷とは思えない。さすがにそれで1ヶ月も寝込むことは無いはずだ。

そうなると、あの魔力と闘力を無理やり混ぜようとしてのが身体に負担がかかっていたのか?


「……でもそれなら立てないのも仕方ないか」


1ヶ月もベッドの上で寝込んでいて、そこから急に立つのは無理だろう。俺のステータスを持ってすれば3日から5日あれば元通りに動けるようになり、狩りにもいけるだろう。


「今日から3日間は面会謝絶で、ベッドの上から動いちゃダメ!」


「それからリハビリに5日間かけ、元通りに生活するのはさらにそれから5日後じゃからな!」


「……はい」


しかし、俺は約13日間の安静を言い渡されてしまった。有無を言わさぬ勢いに思わず頷いてしまった。


それから3日間は本当にベッドの上から動かずに生活した。生活魔法のおかげで老廃物などは出なかったのは助かった。ただ、食事がほぼ液体のようなものだったのが嫌だった。

ちなみに、ここはこの街の高級宿の一室らしい。一室なのに3人で過ごしても平気なくらいの広さと部屋数があるのはおかしな話だ。


3日間が経ってからはリハビリが始まった。まずは何か起こった時のために2人には近くにいてもらい、歩くことからだった。ちなみに、この目覚めてからの3日間で勝手に立って歩くことは可能になっていた。素晴らしい回復速度である。


「明日はギルド長が来るらしいからね」


「あ、そうか」


なんと、あのSランクは何も言わずに姿を消したらしい。そのため、今回の結末は遠目で見ていた者の話しかないそうだ。だから尾びれが付いただけでなく、背びれも胸びれも付いたような話ばっかりなのだそうだ。

それもあって俺に正確な事情を聞きたいそうだ。本来はもっと早く聞きたかったらしいが、俺の体調を心配して2人が止めていたそうだ。

別にそれくらい構わないのだが、心配されてしまった手前そうは言えなかった。

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