第372話 性格破綻者

「Sランク様は随分重役出勤だな」


俺は思わず憎まれ口を叩いてしまう。どんなに遅かろうがこのSランクが来なければ俺は…この街の人間は生きていなかった可能性が高い。

いや、正確には生き延びれた者もいただろう。良くて食料、最悪苗床としてだが。


「それはスマンと思ってるぞ。俺が来た時には既に高ランク大勢で彩化を攻撃しているところだったからな。死者が出そうならすぐに手を出してたが、殺す気はなかったみたいだからな。

それと、お前のところに来るのが送れたのは傷だらけの奴らにポーションを飲ませてたからだ」


「あ、そうだったのか……」


気付くのは遅れたとはいえ、このSランクはやれることをやっていた。本来は見つけた時点で手を出すべきなのだろうが、大勢に囲まれて攻撃をされている間に混じってもフレンドリーファイアに巻き込まれる恐れがある。


「それはごめ…」


「まあ、お前がいたぶられているのはかなりの時間見ていたけどな。心が折れるまで待ってようと思ってたのに、折れなかったから出番がなかなか来なかったぞ」


「………」


前言撤回。こいつはゴミクズだ。

何がフレンドリーファイアに当たるかもしれないだ。こいつの素早さで当たるわけがない。むしろ、当てられた者がいたらSランク候補になれる逸材だぞ。


「あ、一応魔力を使えるのは俺が魔道具を貸したってことになってるからお前が魔力持ちというついてはバレてないからな」


「あっ。まじか」


そういえば、魔力については普通にバンバン使っていた。何なら魔法も放った気がする。それを誤魔化してくれたのは普通に有難い。Sランクが持つ魔道具と聞けば何でも通りそうだし。


「これでお前の功績も俺のもんだな。俺が遅れたのもチャラになったはずだ」


「………」


俺のためかと思ったが、全部自分のためだった。いや…まあ、それでも有難いというのは間違いでは無いんだけどさ。


「Sランクはお前みたいな性格破綻者しかいないのか?」


「お、良いとこをつくな。冒険者でSランクまで到れるのはどこか頭のネジが半分近く抜けてる奴が多いのは違いないな。普通の強者と違って自由な冒険者でのSランクってのは少し訳が違うからな。

例えば魔物をいたぶるのが大好きとか、逆に誰かを助けていないといられないとか、俺みたいな大勢の人間の生き死がかかってるのにやる気が出ない奴とかな」


「………」


俺の目標は冒険者として最強の一角であるSランクになるというものだったが、それを聞くとその意欲が落ちてくる。


「お前がこの領域に来るのを待ってるぜ」


「難しいな」


こいつのような性格破綻者になれるかと言われると、それは難しいような気がする。


「大丈夫。お前は自分で気付いていないだけで強さも性格面でも才能は大いにあるぜ。この街中で爆弾を試そうとするくらいだしな」


「その爆弾って何だ?止めに来る時も変なこと言ってたし」


Sランクが登場した時も変なことを言っていた。言っているのはあの闘力と魔力を混ぜたものを言っているのだろうが、あれが爆弾とはどういうことだろうか?


「お前以外に試しようが無いから断定はできんな。ただ、もっと力量を付けてから試した時には全てがわかるぜ」


「………」


答えをはぐらかされてしまったが、試してみないと分からないのは事実だろう。俺のように闘力と魔力を持ち合わせた者がそう何人も居るとは思えない。


「さてと、お前の意識があるうちに帰るわ。面倒な契約も済んだしな」


「もう暫くいれば英雄としてもてはやされるぞ」


誰にも殺せなかった彩化を瞬殺したのだから、誰もがこの街の英雄と称えてくれるだろう。

しかし、俺の言葉にSランクは凄く嫌そうな顔をする。


「けっ…!英雄になりたいんならお前が死んだ後で民間人がピンチになったところで殺ってるわ。英雄なんて面倒なだけだし、柄じゃない。死んでも嫌だね」


「そう言うとは思ったよ」


嫌な顔をしながらそう答えたSランクの発言はほぼ俺の予想通りだった。


「いつか定例のSランクの集まりにお前がいることを願ってるぜ」


「何だその行く気が全く起きない集会は…って、消えたな」


俺が話している途中でそよ風が吹いてSランクは目の前で姿を消した。


「よっ…あっ」


Sランクが居なくなったところで立ち上がろうとしたが、急に意識が遠のいていく。

そういえば、彩化と戦っていた時は傷は治したとはいえ、血はそれなりに流していた。その状態で彩化へ最後のトドメの一撃だ。そこで闘力も魔力も尽きかけている。


「またかーー……」


俺は再び倒れて意識が落ちていった。

こうして戦いの後に意識を失うのは定番とかしているな…。

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