第370話 力の差
「はあっ!」
「キエ」
回復した俺が振り下ろした大鎌を彩化は鉤爪で受け流す。
その後、受け流した大鎌を踏もうとしてきたので、刃を足の方へ向けてそれを阻止する。
「キエッ…!」
彩化は踏もうとしていた足を方向転換して横から蹴りを放ってくる。それを避けるために素早く大鎌を手元に戻し、くぐるように大鎌で下から足を弾く。
すると、彩化は一旦距離を取る。
「キエッキエッ…!」
「はあ……はあ………」
彩化は楽しそうに笑っているが、俺はそれどころでは無い。今の数秒のやり取りで俺がひとつでも判断を間違えていたら死んでいたかもしれないのだ。
「………」
俺は息を整えながら懸命にこの彩化を殺す方法を考える。しかし、その方法はどうしても浮かんでこない。もう俺の味方は誰も居ない状況で、準備が必要な大技を使えない。また、大技を準備できたとて、再び彩化が食らってくれるとは思えない。
「キエッ!」
「っ!」
少し息が整ってきたというところで、彩化は向かってくる。彩化は正面から攻撃するフェイントを挟んでから俺の後ろに回り込む。
「らあっ!」
「キエッ!」
振り向きざまに振った大鎌は彩化の鉤爪で止められる。風を纏った鉤爪は最初の時のようには折れそうにない。
「あっ…」
「キィ…」
彩化は少し手を動かすと、鉤爪と鉤爪で俺の大鎌を挟み込む。これで俺の大鎌は動かせなくなった。
「キエッ!」
「がほっ……」
そんな俺に彩化は前蹴りを放ってきた。大鎌を手放して避けるか、大鎌を手にしたまま食らうかの2択で俺は後者を選択した。
胸に前蹴りを食らった俺は血を吐いて吹っ飛ぶ。
「がほっ…がほっ……んっぐ…」
骨が折れて痛む胸と血が喉を通って上がってくる苦しさを堪えながら回復ポーションを飲んで立ち上がる。
「くっそ……」
「キエッキエッ」
そんな俺が立ち上がるのを彩化は笑いながら待っていた。こいつは俺の回復ポーションが無くなるまで痛ぶり続けるつもりか?
「ど、どうすれば……」
ラウレーナやルシエル、ザックス達をボロボロにされた恨みや憎しみは残っているが、それ以上に彩化に勝ち目が無いことへの絶望感が増えてきた。そんな中、俺は回復が終えたからと向かってくる彩化に立ち向かった。
「………勝てない」
もう何回回復ポーションを飲んだか分からない。少なくても数十本とかなり余分にあったはずのポーションが残り1桁の数になる程は飲んだ。飲み過ぎて腹に攻撃された時に何回か吐いたくらいだ。また、ポーションで治ったはずの身体が痛い気がする程でもある。
それだけやっても俺ができたのは彩化にかすり傷を数回付ける程度だ。
さすがに心が折れてきた。
「…2人を連れて逃げられるかな?」
地面に蹲って回復していない振りをしながらこんな出来もしないことを考えるくらいには俺の精神はボロボロとなっていた。
相討ちにすらできない力の差が今の彩化と俺の間にはある。仮に魔力を尽くして自爆をしても、彩化は多少ダメージを受ける程度でケロッとしていそうだ。
「もういっその事……。もういっその事…何だ?」
俺は呟きながら手放そうとした大鎌を握り直す。俺は何を考えていた?ラウレーナとルシエルは…ザックス達はあんな状態になってでも最後まで戦っていたのはあの場の惨状を見れば分かる。それなのに、俺が、俺だけがここで諦めていいはずがない。
「ははっ!」
気持ちは前向きになったが、やっぱりどこかおかしくはあるようだ。このタイミングでこれを考えるのはおかしいと自分でも思う。
「暗がれ!ダークサイズ!サイズ!」
俺は自分に纏っている闘装と魔装を大鎌だけに纏わせると闇魔法と無属性魔法を出す。それらも大鎌に纏わせていく。そして、それと無属性付与も含めて5つをごちゃ混ぜにしていく。
「はははっ!」
何も考えずにただ子供が粘土をこねるかのように混ぜていく。混ざっているかもよく分からないが、今の俺が彩化に勝つにはこれくらいしかない。
なんてことを考えていると、そよ風が吹いた気がした。
「ストップだ。それが完成しようが、しなかろうが、この街は終わることになる。それをやる相手が変わるだけでな」
「キエッ?!」
「あ?」
俺と彩化の間にやってきた男が急にそう言ってくる。もちろん、俺はそんな見ず知らずの奴の言葉なんか無視する。
「おい。ストップって言っただろ」
「なっ…?!」
目の前で急に声が聞こえたと思ったら、俺の手から大鎌が弾かれていた。手から弾かれた瞬間、魔法、闘装、魔装は煙のように消えていく。
「俺が出なければならなくなるまで待ってはいたが、契約通りこの街は守ってやるよ」
謎の男はそう言うと、俺から視線を彩化に移した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます