第369話 少し前 別視点
「受付嬢は逃げてきた奴らをギルドの中と訓練場に案内しろ!それとポーションをあるだけ用意しろ!
最後にC…いや、Bランク以上冒険者共は外に集まれ!それ未満と怪我人は一緒に避難しとけ!」
ルシエルと少し遅れてやってきたラウレーナと応援要請でやってきた者達が重傷者を連れてギルドに戻った。その頃にはギルド長を中心として集まってきた人達を誘導していた。
その誘導もなかなか上手くいっておらず、四苦八苦している。
すちゃっ…
そんな中、ある奴がギルドの前に降り立った。そいつは全身緑色で人に近い体にアリのような顔が付いている。
「「「……」」」
あれだけ騒がしかったギルド前がしーんっと一瞬静まる。
「キエーーッ!!」
「「「っ!!」」」
そんな中でその魔物が鳴くと、さっき以上の騒がしさとなる。ある者は気絶し、またある者はパニックになって道を引き返して変な所へ逃げる。それはCランク以下の冒険者も変わりない。
「わ、わあぁぁぁぁ!!」
「やめっ…」
たまたまその魔物の近くにいてしまった冒険者が叫びながら魔物に攻撃を仕掛けようとするが、その攻撃をする前にその者の頭は体から離れた。
「この彩化を取り囲め!こいつが1体だけのうちに確実に殺すぞ!」
だが、まだ冷静な者もちゃんと居る。熟練と言えるBランク以上はほとんどパニックにはなっていなかった。熟練の冒険者ならここまでではなくても、ある程度大きなトラブルの経験はあるのだ。
ここにいる冒険者を代表してザックスがみんなへと指示を出す。
「まずは、前衛部隊行け!」
さっきので血に濡れた鉤爪を見ながら動かない彩化へ囲んでいる何人かが攻撃を仕掛ける。
「キエッ!」
もちろん、彩化はそれに抵抗して攻撃を仕掛けるが、ここにはもうBランク以上しかいないので、なかなかに手強い。
重傷を負ったらすぐに離れてポーションを飲むこともあり、なかなか冒険者の数は減らない。その一方、Bランクに混ざってAランクの者も武器や魔法で攻撃しているので彩化に傷が増えていく。
「「……」」
その様子を見て誰もが順調だと思っていた。だが、実際に彩化と戦ったことがあるラウレーナとルシエルは違った。
「ステータスが落ちてる?」
「それに風魔法を使っていないのじゃ」
彩化の動きは前よりも遅かった。それだけでなく、彩化はその身体の色からも分かる風魔法を全く使っていない。
「っ!まだ誰も死んでいない!!」
「本当じゃっ!」
2人は1番の違和感の正体に気付いた。あの彩化と10分以上戦っているのに、まだ死者が全く出ていないのだ。誰かが回復を必要とするくらい負傷をすると、自然と彩化がそこから離れて怪我人を回収しやすくしていた。そのおかげで重傷者も全員回復できている。
また、この話は少し大きめの声で言ったため、近くのザックスにも聞こえたようだ。ザックスが新たな指示が始まる前に信じられないことが起こった。
「モウ、
「っ!」
彩化が急に俊敏に動くと、周りにいたBランクらはほとんど血を流して地に伏せた。
「
「ちっ…行くぞっ!」
今度はAランクの冒険者と合流したギルド長、ラウレーナとルシエルで彩化に挑んだ。
指揮をとるのがギルド長になったのと、攻撃を仕掛ける高ランクがさらに多くなったことで彩化に深い傷が付き始めたが、人数が減ったことによりAランク冒険者らへの傷も増えていった。
「「「はあ……はあ……」」」
「キィ…キィ……」
傍から見てもいい勝負をしており、どちらが勝ってもおかしくないほど互いに傷付き疲弊していた。
しかし、そんな中で彩化は風魔装を用いて傷を押えて血だけはほとんど流さないようにしていた。
「
そんな中、彩化はボソッとそう言う。
「キエッ!キエエッ!!」
すると、とうとう彩化は魔法を使い始めた。疲弊していた冒険者らの半数弱はそれを防げなかった。
「ぐっ…」
防げなかった者も即死ではなかったので、回復ポーションを取り出して飲もうとする。
「キエッ」
「あっ…」
しかし、その掴んだ回復ポーションを高速移動してきた彩化が全て奪い取った。そして、奪った回復ポーションを彩化が飲んだ。彩化はこれを飲んで冒険者が回復していたのをずっと見ていた。
ところで、魔物に回復ポーションは効果があるのだろうか?答えはある。人間ほど効果は無いが、その半分ほどの効果はある。
しかし、この彩化は人間が混じっている。その結果、回復ポーションの効果は人間と遜色ないほど発揮された。
「……最悪だ」
その結果、ここに来て彩化は無傷に近い状態に戻ってしまった。
「キエッ!」
そこからは一人一人順番に弱い者、諦めた者から彩化の手によって脱落していった。
そして、最後に残ったのは2人だけとなった。
「
「「……」」
全く安心できない報告だが、残ったラウレーナとルシエルにはそれに反論する余裕もない。
「
「「っ!」」
しかし、それを聞いて黙ってられる2人では無かった。彩化の言うアイツのことを2人は誰か分かっている。
「「はあっ!!」」
「キエ」
2人の死力を尽くした最後の攻撃を彩化は避けると、2人の意識を刈り取った。
「キエッ??」
避けたと思った攻撃で彩化の羽の先端がかけた。人間にない部位である羽はポーションでもほとんど治らないが、別にこの程度では動きに支障が無いから全く問題ない。
特訓とモーニングアップの終わった彩化は目的の人物を心待ちにした。
ーーーーーーーーーーー
「はあっ!」
彩化に向かった俺は大鎌を振り下ろす。
「キエッ」
彩化は俺の大鎌に鉤爪を引っ掛けると、そこを中心に回転しながら俺に膝蹴りを放ってきた。
「っ?!」
今まで見せたことの無いその動きに俺は慌てながらも、屈んで膝を避ける。
しかし、彩化はそこから羽を使って不自然に縦に一回転すると、俺にかかと落としをしてくる。
体勢的に避けれないそれを大鎌で受けようとするが、鉤爪に止められて即座に動かせなかった。仕方なく俺は左腕で受ける。
べキッ!
「うぐっ…!」
受け止めた瞬間に俺の腕から骨が折れる音がする。このままだと潰されると直感し、そこから何とかかかと落としを受け流す。
「
受け流してから距離を取った俺に対して彩化はそう言ってくる。
俺は言われた通りに回復ポーションを飲みながら、彩化が話せることに驚く。
だが、それ以上にステータスが落ちているはずなのにあんな動きができるようになっていることに驚いている。
おそらく、今の彩化は前の時よりも総合的には強いだろう。
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