第368話 怒り
「らあっ!」
「キィッ…!」
俺が振った大鎌が1体に当たる。そいつの胸はパックリと割れるが、内臓が溢れるほど深い傷では無い。
しかし、こいつらと戦い始めて数分が経ち、俺も少し冷静さを取り戻したところで、気付いたことがある。
(こいつら…弱くなってる)
こいつらは前に戦った強化個体の生まれ変わりと仮定すると、生まれ変わる前よりも弱い。とはいえ、普通の個体とは比較にならない程度には強いだろう。
ただ、前回と同じ強さがあったら1対3でこんな簡単に傷を付けることはできなかった。いや、むしろ1対3ならそれ相応の覚悟を持って戦うべき相手だった。冷静さを欠いていたとえ、この前との差は直感で分かっていたのかもしれない。
これまた感覚的な話にはなるが、別に技とか動きの癖的なのはあまり変わっていないように感じる。それならどこが以前と違うのか。
(ステータスが前より低い。それにそもそも動きが悪い)
俺が戦ったことがあるアースドレイク産とワイバーン産と比べるとステータスが低いだろう。だから俺の大鎌ですんなりと深い傷を付けられたのだ。
また、それだけでなく、動きがどこかぎこちないように見える。まるで思い通りに身体が動けないかのようだ。
「とはいえだ……」
弱体化しているとはいえ、元強化個体ということに違いはなく、ちゃんと強い。また、魔物らが俺を殺す気が無いのか、積極的に攻めてこないのも対処のしづらさがある。
「轟け!サンダーサイズ!」
俺は魔法を駆使して魔物らを殺すべく戦う。
正直、ここにはいない彩化について心配であるが、こいつらを放置するのも危険だ。それなら彩化のことはある程度任せて俺はこいつらを確実に殺すべきと判断した。
いくら彩化とはいえ、こいつらと同様に生まれたばかりで弱体化しているはずだ。それなら複数のAランクパーティとラウレーナとルシエルなら十分戦えるはずだ。
「はあっ!」
「キッ……」
1体を大鎌で両断し、これで3体とも血を流して地面に倒れ込んだ。
「はあ……ふう…」
30分ほどかかってしまったが、ほぼ無傷で3体とも確実に殺すことができた。
もちろん、闘力、魔力や体力は消費しているが、それらはポーションである程度治る。ポーションを飲み、俺は中央のギルドへと走って向かった。
「っ………」
しかし、もうすぐで着くというところで走っていた俺の足が止まり、ゆっくりと歩く。
ぴちゃぴちゃ……
俺が歩く度にそんな音が聞こえてくる。…別に今は雨なんて降っていないのに、地面には液体が溜まっている。それも赤色の…。
「ぅ…」
「ぉ…」
「助け…」
「うぅ…」
ぴちゃぴちゃ……
倒れている者の苦しげな声を無視しながら、ただただ俺を待っているやつの元まで歩く。
「キエッキエキエッ!」
そして、目の前から嫌な笑い声が聞こえてくる。俺はそれが座っている方を見上げる。
「ホラッ!」
そいつは座っている山の1部を両手で掴むと、ゴミを捨てるように俺の方へ投げてくる。俺はそれを傷付けないように受け止める。
「ヌル…」
「ある…」
「………」
俺は意識は何とか残しつつもボロ雑巾のようになった2人に上級ポーションを零さないようにゆっくりと飲ませる。
「オマエガ、ジボウジキ?ニナラナイヨウニ、ホトンドイカシテオイタゾ」
人が重なってできた山から飛び降りながらそいつは聞き取れる言葉でそう言う。
「ア、オマエガニゲタリ、マケテモコイツラモコロスカラ」
「………」
後ろで重なっている者達を見ながらそう言う。よく見るも、頂上付近にザックスとギルド長が横になっている。
「ソレト、ソコニモイキノコリハイルカラ」
指を指してほうにあるギルドには絶望したような顔でこちらを覗く人が数人見える。彼らはギルドへと避難してきた者だろう。
「っ!」
「オッ!」
呼吸が安定して気絶したラウレーナとルシエルを地面に横たわらせた俺は過去1番強いてあろう身体強化と闇身体強化、無属性付与と闘装と闇魔装をする。
この人生生きてきた中で1番キレていると言っても過言では無いため、ある種のリミッターが外れている。
「殺す!」
「コロス!」
俺とそいつは同時に同じ言葉を言うと、お互いに向かっていった。
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