第367話 孤立無援?
「先に行って!」
「おう!」
魔物が現れた場所を聞き、俺達は走り出す。その際、【敏捷】がなくてスピードがあまり出ないラウレーナを置いて俺とルシエルが先行して走る。まずは早く着いて魔物の被害を抑えるのが最優先だ。
「きゃー!!」
「魔物だー!!」
「逃げろー!!」
「ちっ…屋根の上だ!」
魔物から逃げようとこっち向かってくる住民で道は混雑していた。この中で全力で走ろうものなら怪我人が大量にでてしまう。だから俺とルシエルは屋根の上を通って魔物へと向かう。
「ぐえ…」
「うぅ…」
「助け……」
「っ!」
魔物が見えてきた。その魔物の周りには血塗れで倒れている冒険者の姿が10人ほど確認できる。
「しっ…!」
俺は屋根からジャンプして飛び降りると、倒れている冒険者の中心にいる魔物へ落ちながら上から大鎌を振り下ろす。
「キッ!」
しかし、俺の大鎌は避けられてしまう。
「……?!」
避けた魔物を見た俺は言葉を失った。この魔物は顔はアリのようであり、羽も生えている。だが、人のような防具を付けていて、さらに体は外骨格で覆われているけど形は人間とそう変わらない。指も5本ちゃんとある。
正しく人間とアリの魔物を混ぜたような異様な姿である。
「……」
「「……」」
俺とルシエルと魔物で睨み合いになる。しかし、早く倒れている冒険者を治療しないといけないので時間は無い。俺は1歩踏み出そうとする。
「キエーーーーッ!」
「…は?」
俺が1歩踏み出そうとしたところで魔物は大声で鳴くと、俺に背を向けて逃げ始めた。一瞬固まってしまったが、すぐに冷静さを取り戻す。
「あいつは俺が追う!ルシエルはギルドで増援と救助要請を!他にも魔物がいると思うから油断するな!」
「主も気を付けて!」
俺はルシエルに指示を出し、1人魔物を追う。この魔物に複数人で当たるのは避けたい。他にも魔物はいるかもしれないのだ。
とはいえ、こいつの逃げた先に彩化がいる可能性も高い。俺も油断せずにアリを追う。
「わあー?!!」
「きゃーー!!」
「キエッ!」
「くそっ!」
魔物はただ逃げていく。途中で住民とすれ違うが、全く攻撃しない。ただ走って逃げるだけである。
「はあっ!」
「キシェッ!!」
だが、1分ほどで俺は魔物に追いついた。そこで大鎌を振るが、飛んで避けられる。魔物は飛んでスピードアップしたまま俺を離して逃げていく。
しかし、すぐに地上に降りると、また走り出す。
「…ん?」
もしかすると、体が人間寄りに変化したせいで上手く飛べないのか?それなら追い付ける。俺は再び魔物を追う。
だが、魔物は俺が近くに来ると、再び飛んで逃げる。そして、すぐにまた降りて走り出す。そんなことを何回か繰り返した。
「…違う!」
俺は急停止する。明らかにこの魔物の行動はおかしい。魔物は俺から逃げる素振りをしているのに、逃げようとはしていない。それを証明するかのように俺が止まると、魔物も止まっている。
俺はすぐに別の目的を思いついてしまう。
「俺を引き離すため!」
この魔物は俺を孤立させるためにこんな行動をしたのだ。もう街の端である城壁まで来ている。ここから中央のギルドまでスピードに自信のある冒険者が最短距離で走っても5分はかかるだろう。つまり、5分間は孤立無援で戦わないといけない。
「…いや、少し違う!」
俺はここで考えを改める。そのつもりならもう彩化が現れてもおかしくない。それをしないのは彩化がここにいないからだ。
「…ちっ!」
急いで中央のギルドへ戻ろうとした俺の前に追加で2体の魔物が現れた。
これではっきりした。俺を離れさせて彩化は何かをしたいのだ。
「どけ。殺すぞ」
彩化が何をしたいのかは知らないが、良くないことは確かだろう。それなら俺は早く中央に戻らないといけない。だから俺を囲む3体が邪魔だ。
だが、3体は退く気は無さそうだ。
「じゃあ、殺す!!」
街の端で魔物が現れて人気もないこの場所なら俺は好きに戦える。俺はこれまでできなかった闇魔装と闇身体強化と無属性付与をすると、3体を殺しにかかる。
3体はもう逃げる気は無いのか、俺を迎え撃った。
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