第366話 最悪の思い付き

「分かった。準備してすぐに行く」


俺達は追加報酬が貰えるまでの1週間はずっと宿でゆっくり休んで居ようと思っていた。彩化の件が終わったので、必死にワイバーン狩りをしてレベル上げももういいだろう。ただ、一応不安だったのでポーションはすぐに補充しておいた。


そう思っていたが、宿にギルドの者が迎え来てまで俺達3人はギルド長から直々に呼び出された。迎えに来た者の様子やギルド長からの早急に来て欲しいという指示を加味すると、あまり良い報告とは思えない。やることは無いので、俺達はすぐにギルド長に会いに行くことにした。


ギルドに入ると、すぐにギルド長室に案内され、ギルド長からもソファに座るように指示があった。



「やることが多過ぎて時間が無い。単刀直入に言うぞ。あの彩化の巣から帰還した4人の冒険者が行方不明になった」


「え…?行方不明!?」


思わず目の前の机に手をついて前のめりになってしまうくらい驚いた。

それはラウレーナとルシエルも同じようで2人もそれぞれ驚いている。


「療養中でギルド内にある部屋にいたはずなのに、突然消えたらしい」


「確かその冒険者はCランクだったよな?」


「そうだ」


このギルドは高ランクの冒険者で賑わっているし、探知の得意な者もいるはずだ。だから普通なら雲隠れするのはほぼ不可能だ。

だが、ちょうどこの前までほぼ全てのCランク以上の冒険者がギルドと街から居なくなった。Cランク以上がほぼ出払っている状況なら彼らが雲隠れするのも難しくないだろう。


「あいつらは魔物から生き延びて帰ってきたんじゃなくて、帰ってこされられたんだ。その目的までは分からんがな。

まあ、普通に考えたら俺達を有利な状況で迎え撃つためだろうな。現に俺達はいきなり囲まれ、ヌルヴィスに関しては攫われた」


「それは確かに…」


俺達を効率よく殺すためと考えたらわざわざ巣の場所を教えたのも納得できる。どこからどこに向かっているのかが分かれば途中で罠を待ち伏せするのは簡単だろう。


「ただ、それは乗り越えたから問題ない。今の問題はその4人が卵を産み付けられている可能性があることだ」


「あっ!」


そうだ。帰還させられたのなら、卵が産みつけられていてもおかしくない。むしろ、産み付けている可能性の方が高いまである。


「強さ的にはCランクパーティでも1.、2体なら、Bランクパーティなら4体ぐらいなら余裕を持って対処できる。だが、問題は魔物が見つからないことと、街の住民に被害が出ないようにしないといけないことだ」


幸い、まだ特に行方不明者や死亡者などは居ないそうだ。


「ただ、おそらく卵は産めないであろう。我々の調査では卵を埋めるのは彩化か強力個体かそれに準ずるほど強い者に限る。だから増える心配は無いだろう」


多分死体を解剖して確認したんだろうな。解剖すればあの針のような産卵管があるかないかくらいは簡単に分かるはずだ。


「だから見回りなどはしなければならないが、怯えるほどではない」


「そうか」


話を聞き始めた時は驚いたが、増えることもないし、普通の個体ということは見つかりさえすればすぐに対処できそうだ。ただ、被害が出る前に見つけられればいいけどな。


「今回の話は以上だ。急に呼び出して悪かったな」


「いや、知らせてくれて助かった」


ギルド長からの話は終わったので、俺は宿に帰ろうと腰を上げ……。


「………」


「ヌルヴィス?」

「主?」


しかし、俺はまるでソファにくっ付いたかと思うほど腰を上げる気にはなれなかった。

何か違和感があるのだ。あの彩化が卵を産んだ4人をわざわざ雲隠れさせるなど無意味に近い行動を取らせるとは思えない。あの彩化なら生まれた瞬間に暴れさせる位はやりそうだ。


「………」


何かヒントはないか?彩化に変なところなかったか?

あっ…彩化は死ぬ直前、何で再戦できるような感じだった?それを問うと何でこの街の方を見た?そして、彩化と強力個体は合わせて4体……。


バンッ!


「っ!!!」


俺は思わず机を強く叩くほど最悪な答えに辿り着いてしまった。普通はそんなこと有り得ない。だが、あの彩化ならできていてもおかしくない。それならあんな遊ぶような戦い方も納得できる。


「ギルド長!その4人から生まれたのは…」


「失礼します!」


俺が考え付いたことをギルド長に伝えようとしたタイミングで受付の誰かがノックもせずにギルド長室に入ってきた。その者はすぐに話し出す。


「街で人型のアリに近い魔物が1体現れました!すぐに近くにCランクパーティがいたため、対処に当たりました。そのため、住民に被害はありません」


「そうか!それは良かっ…」


「良くない!!」


住民に被害はないということでギルド長はほっとしているだろうが、そんな悠長な話では無い。俺は思わずギルド長の発言を遮ってしまう。


「ギルド長!今回のその4体は彩化と強力個体の転生体である可能性が高い!もし、強さも引き継いでいるとしたらCランクパーティじゃ殺されるし、住民も危ない!」


「「「………」」」


ギルド長だけでなく、ラウレーナとルシエルも突然の話に固まっていた。急にこんな荒唐無稽な話をしたからそれは仕方がない。だが、俺はそれをどこか確信している。

俺はすぐにギルド長室にも関わらず、装備を装着していく。今日は話し合いに来ただけだから防具を付けてなかったからな。

それを見たラウレーナとルシエルも自分の装備を装着していく。


「…今すぐAランクパーティとBランクパーティを全てギルドに招集しろ!また、Cランクには街で魔物を見つけても攻撃するなと指示を出せ!」


しかし、元現役だけあり、ギルド長の切り替えと判断能力は高かった。すぐに俺の話の可能性を加味して指示を与えていた。


「お前らはすぐに現れた魔物を討伐してくれ。そして、その強さを報告してくれ」


「分かった!」


俺達3人はやってきた受付からどこに魔物が現れたかを聞き、ギルドから飛び出した。

この時は街中という俺とルシエルにとって相性最悪の場所のことを考えている余裕はなかった。

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