第364話 説明と惨状

「………おいっ!……丈夫か!」


「ん………」


誰かから体を揺さぶられる感覚で俺は目が覚めた。


「良かった…。生きてたな」


「…何とかな」


俺を起こしてくれたのはザックスだった。正直、彩化達の影響で魔物の数が激減しているとはいえ、森で無防備に気絶しているは危険だから助かった。

ただ、起きた瞬間に強面のおっさんの顔がドアップなのは少し心臓に悪い。


「ラウレーナとルシエルは?」


「仲間の2人はまだ気絶しているが、お前と同様に傷を治したし、無事だから安心しろ」


どうやら2人も無事なようで良かった。2人も俺の時間稼ぎでかなりの傷を負っていたから心配だったんだ。何ならの気絶する前の俺よりも全然重症だったはず。あれ?傷は?


「あ…俺の腕が治ってる」


「今更かよ」


ラウレーナとルシエルの無事で安心したところで、やっと俺の腕の傷が治っていることに気が付いた。


「ポーション代は必ず払う」


俺や2人を治してくれた回復ポーションの代金は色を付けて必ず払う。安全な街と緊急依頼中の森の中かつ死にかけている時ではポーションの価値が何倍も違う。


「俺とお前の仲だぞ。そんな小さいことは気にするな。どうしてもって言うなら前回の借りを今回俺達が返しただけだ」


「そうか…。ありがとうな」


そこまで言ってくれるならその言葉に甘えよう。逆今度ザックスらが困っていたらその時は何倍にして返してやろう。


「お、そうだ。お前を起こしたのは何が起こったのか聞きたかったからだ。本当はお前も2人みたいにまだ寝ていた方がいいだろうに悪いな」


「全然構わないぞ。むしろ2人じゃなくて俺を起こしてくれて良かった」


今の状況は後から来た者からしたら意味不明だろうな。俺は死んだ彩化と一緒に横になっている訳だしな。

俺は半彩化に連れ去られ、半彩化が彩化となり、こうして殺すに至るまでを説明した。

ただ、俺が魔法を使えるのは言えないから大技を使うための時間稼ぎをしてもらったと言っておいた。



「大元の半彩化の魔物だけでなく、強力個体がこっちには2体もいたのか」


「…強力個体?」


知らない単語が出てきた。そんな言葉は知らないから通称だろうか?


「ああ、すまん。特に強力な魔物だ。推定A+程の魔物だ。こっちにはそれが1体居て全体の指揮を取っていたんだ」


「なるほど…」


強力個体とはあの彩化に食われたアースドレイク産とワイバーン産のことか。言われると、その名前がピッタリと思える。


「まだ詳しく聞きたいことはあるが、今はとりあえず休んでいてくれていいぞ。大元は片付けたようだし、後は俺達に任せろ。お前達はもう十分過ぎるほど頑張ってくれたからな」


「それは…助かる……」


気絶してからあまり時間が経っていないのか、正直だんだん瞼が重くなり、意識がはっきりしなくなってきたからそれはありがたい。

後のことは信頼できるザックス達に任せて俺は再び意識を失った。




「話は聞けたか?」


「…ああ。この魔物はあの元半彩化が成長した彩化で間違いないようだ」


ザックスは身体強化をしているとはいえ、再び眠ったヌルヴィスと大鎌を一緒に軽々と抱き抱えた。また、その後ろから他のAランクパーティがやってきて、そのリーダーが話しかけてきた。


ザックスは軽く何が起こったのかをそのパーティにも話す。


「本当ならその話を疑ったり、Bランク程度で殺れるなら大したこと無かったと吐き捨てるところだが……」


そのリーダーは抱えられているヌルヴィスを見ながらそう言うと、ゆっくり周りを見渡す。



「彩化した魔物がこんなことをできるのか、こんなことをしないと殺せないかは知らんが、どっちにしてもヤバい相手だぞ」


周りの木々はあの大鎌と鉤爪の衝突の余波で折れて吹き飛んだり、根っこから抜けて吹き飛んでいる。また、震源地付近は地面が地割れでも起こったかのように深くヒビ割れている。

まるでこの場だけ巨大な嵐や竜巻と大地震の2つが同時にやってきたような光景である。


「俺らがこの魔物と当たっていたら殺れたか?」


「きっと無理だろうな」


ザックスは素直にそう答える。話を聞いてこの光景を見たザックスは2つのAランクパーティが協力しても彩化したこの魔物には勝てないと判断した。


「こんなのが産まれた時にこいつらが街に居てくれて助かったな」


「本当にな。この借りはでかいぞ?」


「分かってるぜ」


ちょうど会話が終わったこのタイミングでラウレーナとルシエルを抱えたザックスの残りのパーティが合流した。

とりあえず、彩化の死体をザックスのマジックポーチ入れると、この場から立ち去って全員が集まっている場所に向かった。

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