第363話 衝突と最後
「うぎあっ……!」
俺の闇魔法を纏う大鎌と彩化の風魔法を纏う鉤爪が衝突した少し後、俺は両腕の痛みに耐えられず大鎌を手放す。
俺の両腕の肘から先は骨が見え、その骨すらボロボロになるほどズタズタに斬り裂かれている。両腕がまだ繋がっているのが凄いくらいだ。
俺の両腕は酷いことになっているが、あの衝突で押し負けていないので腕以外に怪我は特にない。
一方彩化はどうなったのだろうか。
「キィッ……キエッ………」
彩化はと言うと、右腕は肩や脇腹ごと消し飛んでいた。彩化は押し負けるとわかった瞬間に腕を横に伸ばして身体を大鎌から遠ざけた。だから全身が消し飛ぶことは無かった。逆に言うと、本気で真正面から衝突していれば、彩化は既にこの世にいなかった。
まあ、彩化したばかりの魔物の魔力を使った大技と何年も魔法を使っている俺の魔力ポーションを使った大技なら俺に分があった。
ただ、鉤爪が纏う風の余波まではさすがに考えていなかった。
「ほっ…あぐっ!」
俺は大鎌を足で弾いて浮かせ、口で咥えると、彩化へと向かって走る。
今の俺は両腕が使えなく、ポーションも取り出せない。だが、目の前の彩化は致命傷とも言える大きな怪我を負っている。ここで攻めない手はない。
「キッキシャ!」
彩化は俺から距離を取ろうと空を飛ぼうとした。しかし、片羽はさっきの攻撃で欠けていたため、上手く飛べない。
「ふあっ!」
「キシャッ?!」
俺は咥えた大鎌を振り、大きな傷口に大鎌を突き立ててを沿うように斬る。硬い外骨格は斬れなくても、傷口くらいなら今の俺でも斬れる。
また、前回の反省を活かして今回は闇付与をしているからもうその傷を回復できないぞ。
「キッキエッ!!」
「はわっ!」
飛べもせずそう簡単には逃げれないと分かったのか、彩化は残りの左の鉤爪で俺を攻撃してくる。しかし、致命傷を負い、風魔装や風身体強化すらも使えていない彩化の攻撃を避けることは今の俺でもできた。
「キエェェェェェ!!!!」
「ああぁぁぁぁぁ!!!!」
最後はお互いに魔法なんて頭になく、ひたすらに己の武器である大鎌と鉤爪を振り続けた。
これまでと比べてお互いの動きキレもなく、攻撃が当たったとしても大したダメージにはならないが、俺達は真剣だった。
だが、そんな子供の喧嘩のような攻撃のやり合いは長くは続かなかった。
「キ…キシャ……」
彩化は崩れるように倒れていく。致命傷を負ったのに動き続けていればいずれはこうなる運命だった。
「あっ……」
ところが、俺もそのタイミングで血の流しすぎで体に力が入らなくなり、膝を付いて口から大鎌が落ちる。
「キシャキシャ……」
彩化はうつ伏せに倒れながらも、顔の横で膝を付いている俺の顔を見上げて鳴く。何となく、また負けた的なことを言っていると理解できてしまう。
「キシャ…キシャキエッ…」
彩化は震える鉤爪を1本立て、その次に俺を指差して首を掻き切るような仕草をする。
次は必ず勝って殺すとでもいいたいのか?
「次なんてある訳が無いだろ」
「キシャ……」
彩化は街がある方角を横目で見ながら左腕を少し動かしたところで動かなくなった。
「…今回はちゃんと仕留められたな」
今回は逃げられず、ちゃんとこの魔物を殺すことができた。だが、それは3対1であったのと、この彩化がどんなに不利であろうと真正面から戦ってくれていたからだ。卑怯な搦手などを使われていたら負けていた。
魔物に対してこんなことを思うのも変な話だが、正々堂々1対1で殺り合ってみたかったという気持ちが少しある。それをやっていたら俺が負けて死んでいたけどな
「あっ…」
なんて考えていると、だんだん意識が遠のいていき、俺もその場に倒れて意識を失った。
ところで、話は変わるが、ギルド長の直属の部下である隠密が得意である密偵が巣に向かって誰一人帰って来れない中、普通の冒険者が巣から4人も帰って来れるものだろうか?
生存者がいた事に喜ぶあまり、こんな簡単な違和感を誰も考えていなかった。
「「「「キエッ!!」」」」
彩化が力尽きて1分も経たないうちに、ある4人の腹の中から4体の魔物が産まれた。
「ツギハカナラズカッテコロス」
このことにまだ誰も気付いていない。
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