第362話 殺せる一撃

「ヌルヴィス!」


「キエッ…」


水の線を俺の近くの地面に付けて高速移動してきたラウレーナがそのまま彩化を殴り飛ばした。

ラウレーナはそのまま俺の後ろに立って彩化から俺を守るように立ちはだかる。


「うっ…!」


俺は腹から血が流れる中、屈んで手を伸ばして近くに落ちている切断された右腕を手に取る。俺の怪我は重症ではあるが、致命傷には至っていない。その理由は彩化が鉤爪の攻撃は防がれる前提だったために殺す気がなかったからだ。卵を産むために防御させようとしたのに、俺が防御しなかっただけだからな。だから心臓などの重要な臓器は貫かれていない。



「あぐっ」


俺は最上位回復ポーションが入った瓶を口で咥えると、左手で右腕を傷口にくっつける。

そして、上を向いて咥えている瓶から最上位回復ポーションを口へ流し込み、それを飲み込んだ。



「ありがとう。助かった」


俺は立ち上がりながらラウレーナに礼を言う。ラウレーナが来なかったら俺はこんな悠長に回復する暇はなかった。ラウレーナのおかげで怪我は全て治せた。


「大丈夫?」


「血は思ったよりも流れてないからまだ平気だ」


ラウレーナは未だに動こうとしない彩化から目を離さずに俺を心配してくる。

右腕の傷はすぐに応急処置できていたし、ラウレーナが来るのが早かったから思っていたよりも血が流れていない。少しふらっとする程度でまだまだ戦うには平気だ。回復ポーションで傷は治せても失った血は戻らないからな。


「キエッ!!」


彩化は俺の治った右腕と自分の右腕を指差して喜んでいる。失って治ったのがお揃いとでも思っているのか?


「……俺の全力の攻撃でも彩化にダメージを与えられなかった」


「っ!」


俺は彩化が攻めてこないならその間に作戦会議をすることにした。


「……どうするの?」


「……」


その質問をされて俺はすぐに答えは出せなかった。1番有力なのはザックスらなどがいる場所にこいつを連れて行くことだろう。俺よりもパワーがあるザックスならこいつにダメージを与えることも不可能では無いはずだ。

だが、そうすると、少なくない死者が出るのは間違いない。しかもそもそもこいつのスピードに対応できる者がいるとも限らない。最悪の場合は何が起こっているかも気付かず鏖殺にあうだけだ。



「…ラウレーナ時間を稼げるか?」


「あれを相手に時間稼ぎか……」


酷なことを言っている自覚はある。だが、俺達の勝ち筋はそれくらいしかない。


「やってみるけど、そんなには持たないからね」


「ありがとう」


俺はラウレーナから少し下がる。

時間稼ぎを頼んだからにはそれなりの成果は出さないといけない。


ところで、彩化を殺すに当たって俺に何が足りないだろうか?それは攻撃力だ。圧倒的に攻撃力が足りない。


それなら攻撃力を増せば良い。


「ごくっ…。暗がれ、ダークサイズ。ごくっ…。暗がれ、ダークサイズ。ごくっ…。暗がれ、ダークサイズ。ごくっ…。暗がれ、ダークサイズ。ごくっ…。暗がれ、ダークサイズ。ごくっ…。暗がれ、ダークサイズ。ごくっ…。暗がれ、ダークサイズ。」


俺は魔力ポーションを飲んで魔力をほぼ前回まで回復させながらダークサイズを7つ浮かべた。


ガンッ…!


「うっ…」


彩化が何かをやっている俺にちょっかいを出そうと近寄って攻撃してきたのを、ラウレーナが巣を利用した高速移動でその身をもって防いだ。

俺はそれに感謝しながらも、反応せずに7つの魔法を魔法合体させる。


「やあっ!」


ちょうどそのタイミングでラウレーナと同じように復活してきたルシエルが彩化に攻撃を仕掛ける。その様子を視界の端で捉えながらも俺は集中する。




「…できた」


鼻血を出し、頭もガンガン痛む中、7つのダークサイズを魔法合体させることに成功した。

合計で4550以上の魔力が込められたこれを食らったら流石の彩化であろうと無事では済まないだろう。

だが、まだ足りない。このただの魔法を高速で移動している彩化に当てられるとは思えない。


「ふぐっ…うぐぐ……」


俺はその魔法の中に大鎌を埋め込んでいく。普通の大鎌なら耐えられないであろうが、この大鎌ならか耐えてくれるはずだ。



「できた」


俺が両手で握る大鎌はダークサイズを纏っている。見た目では闇魔装時と大差はないが、魔力の密度が全然違う。正直握って押さえ込んでいるから保っているだけで、両手を離した瞬間にこの魔法は爆発するであろう。


「後は任せろ」


「…よろしく」


「頼んじゃぞ…」


満身創痍で今にも気絶しそうな2人の横を通って彩化と向き合う。


「キシャキシャキシャ!」


彩化は俺がやってきて嬉しそうに鳴く。

そういえば、この状況は前の彩化に似ているな。2人に守られてパワーアップしているところとかがな。ただ、俺は彩化と違って守ってくれた大事な仲間である2人を食べたりしないけど。



「キシャッ!」


「あっ!」


彩化はひと鳴きすると、空に高く飛ぶ。

ところで、相手が自分を殺せるであろう強力な一撃を用意していたら普通はどうするであろうか?

普通は逃げるだろう。だから俺は彩化のその行動に焦った。今の俺は無属性魔法を使って駆け上がる程の余裕は無い。


しかし、彩化は普通ではなかった。



「キエキエキエキエキエキエキエキエ……」


彩化は上空で自身の鉤爪に風魔法を纏わせ続けた。やっていること自体は俺の闇魔法を大鎌に纏わせるのと大差はない。

普通ではない彩化は俺の一撃に対抗する一撃を作っているのだ。




「キエッ!」


誰にも邪魔されることの無い上空で彩化の準備も完了した。彩化の右鉤爪には鉤爪が見えなくなるほど濃く圧縮された風を纏っている。



「キエェェェ!!」


「はあぁぁぁ!!」


そして、上空から急降下してきた彩化の右鉤爪と俺が振り上げた大鎌が衝突した。

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