第361話 勝ち目

「キィ?」


俺が辺りを見渡すような動作をしたのに気が付いたのか、彩化は不思議そうにする。


「キィッ!」


そして、俺の行動の理由が共に戦う者を探していると気付いたであろう彩化が怒ったように鳴く。


「キィッ…。キィー、キエ、キィッ!」


だが、すぐに何かを考えつくと、吹っ飛んで行った2人がいるであろう場所を指さし、次に首を掻き切るような動作をする。

……俺が仲間を探しに行ったら2人を殺すと言いたいのだろうな。



「……来いよ」


俺は大鎌を構えて意気込むようにそう言う。

もう退路は無いのだ。それなら死ぬのを覚悟して戦うしかない。


「キエッ!!」


その姿を見てか、彩化は嬉しそうに鳴くと、その姿を消した。


「っ!!」


すぐに右腕から危険感知が反応し、俺は大鎌を振る。


ガキンっ!


「うっ……」


大鎌で彩化の攻撃を受けることには成功した。ただ、威力が強過ぎて俺は滑るように2、3メートル吹っ飛ぶ。


「キィッ…キィィィ!!」


そんな俺を見て彩化のテンションは上がったようだ。俺が一撃で倒れなかったのが嬉しいのか?


ちなみに、俺の危険感知は危険に対して一定の猶予を持って反応する。だから彩化のスピードがどれだけ上がろうが、反応してから攻撃が来るまでの時間は変わらない。だからなんとか防ぐことができる。

まあ、フェイントとかをされた瞬間に俺は無残に殺されているだろうけど。



「キィッ…!キイッ!キエッ!」


「うっ…!ぐっ…!あぐっ…!」


彩化は高速移動を続けながら俺に攻撃してくる。俺はそれを防ぐのがやっとだった。傍から見たら彩化の動きは見えないから俺は下手に踊っているかのようにでも見えるのだろうな。


「暗がり…轟け、ダークサンダーバーン!」


「キシャッ!」


俺は自分をも巻き込んで広範囲魔法を使った。もちろん、俺もダメージを受けるが、その間に魔力、闘力、回復ポーションを飲む。今回の魔法は見かけ騙しで威力自体はそんなにない。



「キエッ……」


魔法が解けると、彩化は今度は自分の番とばかりに右腕を引いて腰を落として構える。


「キエェェ!!」


彩化は引いた右腕を振ると、鉤爪から風の斬撃が放たれる。俺はそれを闇魔装を纏う大鎌で斬り消す。彩化はまだ魔法に慣れていないのか、前動作が多いから魔法を防ぐのはそんなに難しくない。問題は彩化したことで上がったスペックと身体属性強化と風魔装だ。


「キィッ」


彩化は改めて俺の右腕を指差す。彩化して腕が治った今でも目的は変わらないんだな。

その行動を俺が見たと分かると、彩化は姿を再び消す。



「キィッ!」


そして、前と同じように俺に鉤爪を振る。

ところで、今まで圧倒的に格上の彩化の攻撃を防げていたのは何故だろうか?その答えには俺の危険感知と反射神経強化が強いというのもあるが、模範解答は彩化が1回攻撃したらまた高速移動したからである。

それなのに、高速移動を終えた彩化が両手で2回攻撃したらどうなるだろうか?


「うがっ……!」


正解は俺の右腕が切断されるだ。片腕の攻撃ですら防ぐのに精一杯なんだから2回目の攻撃を防ぐ手段は俺には無い。


「キエッキエッキエッ!!」


右腕が無い俺を見て彩化は大笑いする。俺はその間に血が流れ過ぎるのを防ぐために右腕の傷口の上を左手と口を使って布で縛る。



「キィーー……」


彩化は笑い終えると、拳を顎に当てて首を傾げて何かを考えるような仕草をする。どうせろくでもないことを考えているのだろうな。


「キエッ……」


彩化は良いことを思い付いたとばかりに鳴くと、細く長い針のような尻尾?を出す。


「おいおい……まさか…」


それの用途なんて俺は1つしか知らない。まさか、俺に卵を産み付けるつもりか?それは絶対に嫌だ。


「ふっ……」


俺は覚悟を決めると、大鎌を構えて目を閉じる。

目を閉じてから1分もしないうちに危険感知が反応する。しかし、俺はその反応を無視し、反応がした先に大鎌を振る。


「かほっ…!」


俺の身体に彩化の鉤爪が突き刺さる。だが、その代わりに俺の振った大鎌も彩化の首に当たった。


「はっ…ははっ……」


その結果は首にかすり傷すら付けれなかった。風魔装を何とか突破して大鎌は止まった。片腕というのもあるが、全力の強化をしてこれだったのだ。両手になったところで致命傷はおろか、大ダメージを与えられていたとは思えない。


そもそも俺が彩化と戦うには攻撃力が足りなかったのだ。攻撃力が足りない以上、俺ではこの彩化にダメージを与えることはできない。つまり、最初からこの魔物が彩化した時点で俺に勝ち目は無かった……。

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