第360話 彩化

「キィッ……」


まるで生まれ変わったかのような彩化の一挙手一投足に注意していると、彩化は腕をクロスして自分を抱き締めるように腕を身体に巻き付ける。


「っ!跳べ!」


「「っ!!」」


俺は危険感知に従って2人にそう指示をし、自分も全力でジャンプする。


「キエェェェ!!」


俺達がジャンプをした少しあとに、彩化は両腕を勢いよく解き放って体の周りを半回転させた。

ただ伸ばして回されただけでは特に何も起きないはずだが、そうはならなかった。


「嘘だろ………」


彩化の鉤爪から風の斬撃が放たれ、辺りの木はスパッと切断されて倒れていく。

その光景は目の前の魔物が緑化して風魔法を使えるようになったのを嫌でも分からされてしまう。


「キエェ……」


俺達が地面に着地しても彩化は特に動かずに俺達3人を観察するように順番に見続けている。


「……」


俺はここで2人とアイコンタクトをとる。相手が強くなったとしても、俺達の目的は変わっていないのだ。


「しっ!」


俺は彩化へと大鎌を構えて迫る。今までのスピードも厄介だったが、今はそこに風魔法が加わっているのだ。攻撃を食らわないように俺は精一杯の警戒をしていた。


「シャッ!」


「はあっ…?」


しかし、彩化がとった行動は俺からバックステップで逃げるという行為だった。


「ここから逃げる…わけでは無いのか?」


とはいえ、彩化は俺からある程度の距離ができるとそれ以上は下がらなかった。羽を使う様子もないし、この場から本気で逃げる気ではないようだ。

今の感覚としてはちょっと待って欲しいみたいな感じだろうか?


「流れ出ろ!ウォーターウェブ」


そんな彩化に近付いたラウレーナは水の巣を作る。もちろん、その範囲に彩化は入っていたが…。


「キシャ」


彩化は飛んでその範囲から出ると、すぐに飛ぶのを止めて地面に降りる。


「何がしたいんだ…」


本当なら3人で囲むようにして攻めればよいのだろうが、この彩化の目的が分からない以上、下手に攻めて逃げられるわけには行かないのだ。

本気で逃げようとされたらかなり面倒になる。最悪の場合、空を移動できる俺だけで追わないといけなくなる。



「キッシャ!!」


とりあえず、彩化を囲んで逃げ場を無くしてどうするかを考えているところで、彩化は力強く鳴いた。その瞬間、彩化の身体の周りを風が包み込んだ。


「「「魔装……」」」


俺達3人の独り言が重なった。彩化のしているそれはどう見ても風魔法の魔装にしか見えなかった。

また、魔装に目を取られてすぐには気付かなかったが、彩化の身体からは緑のモヤも出ていた。これは風魔法で身体属性強化をしていることに他ならない。風魔法の身体属性強化は基本的にスピードを増す強化である。


「キシャッ!」


彩化はひと鳴きすると、少し浮いてから姿を消した。いや、高速移動をしたことで視界から消えたのだ。


ガンッ!


「うぐっ…!」


「ルシエルっ!」


周りを警戒している中、ルシエルの苦しげな声が聞こえてそっちを見る。すると、そこには彩化の姿はなく、攻撃されたであろうルシエルが吹っ飛ぶ姿しか見えなかった。光魔装の自動回避があるはずのルシエルが一撃で吹っ飛ばされた。


「うぐっ……!!」


「ラウレーナっ!」


それと同じことがラウレーナでも起こった。ラウレーナもルシエル同様に吹っ飛んで行く。水魔装もあり、誰よりも防御力には自信があるラウレーナがくるしげな声を上げていた。

2人は木という障害物がなくなったことで遠くまで転がっていく。


「…っ!」


次は俺にも同じことが起こると思い、警戒していたが、俺には起こらなかった。


「キシャッ!キシャ♪」


わざわざ俺の前に再び姿を現した彩化は右と左の鉤爪を1本ずつぶつけながら上機嫌そうに鳴いた。


「…1対1で戦えるのが嬉しいのか?」


「キシャッ!」


彩化はそうだとばかりに力強く鳴いてから頷く。本来なら完全にこちらの言葉を理解していることに驚ろかなければならないのだが、俺はそれどころではなかった。


(こいつ相手に1人で…)


元々1人では無理だった半彩化が、彩化としてさらにパワーアップしているのに、1人で戦えるかと言われたら無理な話だ。


(ザックス達…!)


情けないことではあるが、俺だけでは勝てないと見切りをつけて、俺はザックス達の姿を求めて辺りを見渡す。だが、そんな都合よくザックス達の姿はここには無かった。

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