第357話 笑み

「キシャッ!」


「うっ…!?」


半彩化がいきなり俺に向かってきて、鉤爪を振ってきた。俺がそれを何とか受け流すと、半彩化は俺を通り過ぎて後ろに回った。


「キシャキシャ?キシャキシャ!」


半彩化は自分の無い右腕を指さしてから次に俺を指さし、無い右腕を掻き切るような動作をする。最後にさっきと同じく首を斬る動作をする。


「今の俺の動きを見た上で、まずは自分と同じようにするために右腕から落として、首を落とすのはその次って言いたいのか。そんなに余裕な相手ってことが言いたいのかよ」


さすがに魔物相手とはいえ、ここまで舐められた態度を取られると少し癇に障る。

だが、今の俺がすべきことはあくまで時間稼ぎだ。だからこうして半彩化がジェスチャーをして時間を使ってくれることすら有難い。


「それよりも先にお前の……首を…落とす」


俺もさっき言ったことと同じことを今度はジェスチャーをしながら半彩化に伝える。


「キシャッ!!」


半彩化はひと鳴きすると、俺に勢いよく向かってくる。それを俺は闇身体強化を雷身体強化に、闇魔装を氷魔装変更して、無属性付与を解いて受ける。いつもの攻撃特化から防御面を強化しながらも闘力と魔力を温存した持久戦をする状態となった。


「キェッ!」


「動きが……!」


半彩化の動きが前よりも速く感じる。実際にはスピード的にはほとんど変わっていない気がする。だが、動きに無駄が少なくなってるから速く感じてしまう。


「と、轟け!……サンダー…サイズ!」


「キシェ!」


半彩化の猛攻を何とか捌きながら詠唱をし、自分の周りを雷の大鎌で一周した。それを避けるために半彩化は一旦距離をとる。



「はあ……はあ……」


今の時間にして1分にも満たない猛攻を防いだだけで俺の息は上がっていた。だが、防具と魔装に傷を負っただけでダメージはほとんど入っていない。

とはいえ、今の猛攻も明確な隙では必ず右腕を狙ってくるのがなかったらそうはいかなかっただろう。


「キエキエッ」


「…ん?」


半彩化は鳴くと、数センチほど空中に浮かんだ。そして、すぐに俺の視界から半彩化は消えた。


「キシェ!」


「っ!!」


俺は危険感知の反応に従って大鎌を振り上げた。すると、俺の大鎌に当たって少し上にズレた鉤爪は俺の右肩の上を掠めて俺の顔の横を通る。


「キエッ!」


「………」


半彩化は攻撃を防がれたくせに嬉しそうに鳴いてから距離をとるが、俺はそれどころでは無い。今のは右腕を警戒したのもあったからギリギリで防げた。それが無かったら最低でも重症は免れなかった。目の前から向かって来ているのに姿を見失うのはあってはいけない。

羽を使って動いただけでこんなにスピードが違うのか。



「ふひっ…」


「キエ?」


そんな絶望的な状況にも関わらず、俺は笑った。もちろん、今の動きを見て気が触れた訳では無い。


「……待ってたよ」


「おまたせ!」


「いや!勝手にどっかに行ったのは主なのじゃ!」


俺は時間稼ぎが成功したから笑ったのだ。気配感知で2人が近づいてきたのが分かっていた。


「でもかなり早かったな」


あんな量の魔物に囲まれてここまで早く来てくれるとは思っていなかった。それもあって思わず気持ち悪い笑みがこぼれた。


「ザックス達とAランクパーティ1つが何とか道を空けてくれたんだよ」


「道理で早いわけだ」


ザックス達だけでなく、他のAランクパーティもが手伝ってくれたのならこの早さにも納得だ。後で必ずザックスらとそのもう1つのパーティには感謝を伝えないとな。


「キシャ……キシャキシャ、キシャッ!」


半彩化はやってきた2人を見て、肩を落とすと、2人を指さしてから手で払うような仕草をする。2人が邪魔とでも言いたいのか?


「いや…お前も…前に戦った時は大勢でやってただろ」


俺は次からもジェスチャーを混じえながら時間稼ぎをしようとしていたのがあり、時間稼ぎがもう要らない今もジェスチャーを使って話してしまう。


「シャッ…?!キシャーー…」


半彩化はそれを聞いて少し驚き、次にあちゃーっとでも言うかのように額を片手で抑える。


「キシャアアア!!」


半彩化は天に向かって大声で鳴く。仲間でも呼ぼうとしているのかもしれないが、鳴くだけで完了するその行動を防ぐ手立ては無い。


「行くぜ!」


鳴いたのは無視して、俺は強化類を元に戻して半彩化へと向かっていく。それに合わせて他の2人もそれぞれの強化とやり方で半彩化へと迫る。

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