第355話 情報と緊急依頼

「緊急招集に集まってくれてありがとう」


大勢が緊張感を持ってギルドに集まっている中、ギルド長がそう言い出す。

俺達がワイバーン狩りから帰ってきたちょうどその日に初めての4人の生存者が帰って来ており、次の日の昼前にできるだけの冒険者を集めて合同で説明会が開かれている。

ちなみに、その4人はギルドに辿り着いて情報を話した後は疲れかずっと眠っているそうだ。



「まず、今回の行方不明の件は疾火気炎らが伝えてくれた半彩化の魔物が現況と確定した」


「っ!!」


ギルド長の言葉で全員に緊張が走る。半彩化は熟練のAランクのパーティでも殺りきれずに逃げられた魔物と伝わっているのでそれも仕方ないだろう。


「そして、人を攫っていたのは人型に近いアリのような魔物達だそうだ」


「………」


これであの卵を産み付ける能力で数が増えていることがこれで確定した。


「それと、攫われた者は巣まで連れて行かれてから逃げ出したそうだが、……巣では目の焦点があっていない人の膨らんだ腹を破ってその魔物が産まれ、腹を破られた人間を産まれた魔物が食うのを見たそうだ」


その発言には全員が絶句した。


「お、おい…。て事は攫われたヤツらはもう…」


「…ああ。全員死んでいるだろう」


それを聞いて攫われた者と仲が良かったと思われる者が机を殴って破壊などをした。ギルド長も今回ばかりはそれを咎めないようだ。

考え方は悪いが、生存者が少ないのは良かったがしれない。1人に付き、産まれる数が決まっているのだ。無限に産まされて増加するという心配は消えた。

また、何よりもこの情報で巣の場所が分かった。



「話を続けるぞ。…その魔物達にも特徴があり、指が5本で我々のような装備をしている奴、角が生えて筋肉質な奴、蛇のような縦に割れた瞳と鱗を持った奴など様々いたそうだ」


…そうだよな。人が大丈夫なら他の魔物でも大丈夫かもしれないな。それならもう産まれた数は予想できない。今の情報だけでも、人間、オーガ、蛇系の魔物が産まされたのが分かった。


「だが、その個体ごとの強さはC+かBランク程だそうだ。とはいえ、数が分からない以上、何とも言えん」


さすがに全員があの半彩化ほど強くはないようだ。全員の強さがあれだったらさすがにどうしようもない。


「それと、昨日から何人かに密偵を放って巣を調査してもらったが…まだ誰も帰って来ていない。もしかすると、全員魔物に捕まったかもしれん」


つまり、これ以上の追加情報は期待できないだろうとの事だな。



「この事からこのギルドから緊急依頼をこの中央のギルドのCランク以上の冒険者全員に出す!参加報酬は1人あたり大金貨3枚!他にも仕留めた魔物の種類や数に応じて追加報酬も出すぞ!これに参加した者はランクアップに必要なポイントを大幅追加するのと、不参加した者は2ランクダウンだ。厳しい措置だが、かなり緊急度の高い者だから受け入れてほしい」


ランクが2つ下がるのは厳しいと言えるが、このままだとこの街や国だけでなく、周辺の国全ての問題になる可能性すらあるから仕方がないとも言える。

それに緊急時に逃げるような冒険者はどの街でも必要とされていない。多少の粗暴が許されるのもこういった時に街を守るべく戦うからだ。


「本当は周辺の国や街からも冒険者を招集したいが、そんな時間が無い。作戦開始は2日後!全員で南門を出て巣に向かう。隊列はその時に指示をする!今日この場に居ない者にも伝えておけ!

さあ!それぞれ行動開始だ!」


ギルド長がそう言い終えると、全員がバタバタ動き出した。聞き耳を立てると、俺はどこの誰に声をかけるかとか必要なポーション類を補充しようなどが聞こえてくる。

俺達3人は特にこれから何か行動する必要は無いが、パーティで話し合うことはあるし、ギルドから出ようとする。だが、そう行動を移したところである声が聞こえて立ち止まる。



「ギルド長!Sランクの冒険者は参加するのか!」


誰かがそれを言うと、騒がしかったギルド内がしんっ…と静まった。ギルド長からの答えをみんなが待ち望む。しかし、その答えは期待を裏切るものだった。


「……Sランクの冒険者は参加しない。あれがまだこの街にいるか分からないが、あれは街が襲われて門を突破して魔物が街に侵入するまでは手を出さなくて良いと契約しているのだ」


ギルド長が言い終えると、徐々に喧騒が戻ってきた。その時の話の内容はほぼ全てSランク冒険者への悪態だった。さすがにここで魔物を街の中まで誘き寄せればいいと考え、口に出す者は居なかった。

そして、今度こそ俺達3人は宿へと移動した。

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