第353話 新たなスキル
「えっとー……」
俺達は予定通り次の日にワイバーン討伐へと向かった。
目的地では1体のみのワイバーンをまず見つけ、それを墜落させて2人に狩ってもらった。飛べないワイバーン程度なら2人は余裕で狩れていた。
そして、次は問題の2体で行動しているワイバーンを発見した。少しおかしなことが起こったのは、それを墜落させに俺が空中に行こうとした時だった。
「…何で俺に水の線を付けてるの?」
俺の腰にはラウレーナの腰と繋がっている水の線が巻き付いている。
「それに何でラウレーナはルシエルを背負ってるのさ」
また、ラウレーナの背中にはルシエルが張り付いている。
「空中でも手伝おうと思って!」
「その気持ちはありがたいけど、さすがに空中で引っ張られるのは嫌だぞ?」
ラウレーナが手伝ってくれるという気持ちは嬉しく思うが、空中にいる時に下からラウレーナもやって来ようと引っ張られたら俺が身動きが取れなくなる。
ラウレーナの水の線は何かに固定して、それを引っ張ることで進んでいる。引っ張られると、俺は空中から落ちないように踏ん張らないといけなくなる。
「ふっふっふ!その辺は大丈夫だから心配しないで!」
ラウレーナは自信満々にそう言う。1体のみのワイバーンを探して試してもらおうかとも思ったが、そんなに自信いっぱいなら任せてみようと思う。
最悪、ワイバーンから逃げるのくらいなら今の俺ならできるようになったしな。
「じゃあ、行ってくる!」
俺は地面を蹴り、用意していた無属性の盾を蹴って駆け上がる。
この盾には前と違った要素がある。それは蹴ってもヒビが入るが、割れない点だ。
今までは空中で移動するのに蹴ったら割れる程度の弱い盾を使っていた。しかし、蹴った瞬間に割れてしまうと、蹴った力が全て推進力として加わらず、スピードが遅くなっていた。そこで、蹴っても割れない強度にしたのだ。そうすると、地面を走るのと同じように力強く踏み進める。これはクッションの上を走るよりも、硬い地面の上を走った方が上手く早 速く走れるのと同じことだ。
ただ、一々ヒビの入った盾を消さないといけないのと、強度を高めたことで闘力が多く必要になったのはマイナスポイントだ。だが、それを補ってあまりあるほどの機動力を得た。
「「ギャアッ!!」」
「来いっ!」
空中に上がった俺にワイバーンらが気付いた。俺に向かってくる中、俺は盾に乗って身構える。
そんな中、俺の元に地上から猛スピードでラウレーナが迫ってきた。しかし、俺が引っ張られる感覚はほとんどない。
「左は任せるのじゃ!」
「お、おう!」
混乱はするものの、言われた通りに俺は右のワイバーンを狙う。
「はあっ!」
「ギャア!!」
ワイバーンの口に大鎌を刺し込む。すると、ワイバーンは体を捻って俺へ尻尾を振ってくる。俺は口の中の大鎌を立て、大鎌をバンザイするように持ってワイバーンの頭の上で逆さになって避ける。
チラッと横を確認すると、ラウレーナが頭から腰までワイバーンに噛まれていた。また、ラウレーナの背から離れ、水の線を腰に巻き付けたルシエルが空中でプラプラしながらワイバーンの羽に魔法を放っていた。
「ちょっ!」
「大丈夫だから気にしなくていいよ」
しかし、噛まれているラウレーナはワイバーンの口の中でくぐもった声でそう答える。
現にすぐ痛みで暴れたワイバーンは返り血で汚れたラウレーナを口から離す。
「よっ!」
「ギィアッ!!」
ラウレーナ達は大丈夫そうなので、ワイバーンの上顎を斬りながら大鎌を口から抜き、ワイバーンの背中に乗る。一見安全そうなこの場所はワイバーンの風の操作の範囲内である。だからあまり悠長にはしてられない。
「らあっ!!」
「ギィアッーーー!!」
ワイバーンの片羽を斬りながら俺はワイバーンの背から離れる。その傷によってワイバーンは地面に落ちて行く。
「ギィアッーーー!!」
横を見ると、ちょうどもう1体のワイバーンも地面に落ちて行く。2人でもう1体のワイバーンを落としたんだな。
「ちょ…!ちょいちょい!!!」
ワイバーンを落としたラウレーナとルシエルはワイバーンと同じように落ちていく。俺は慌てて2人を捕まえようと急降下しようとする。しかし、すぐに腰の水の線が少し引っ張られてラウレーナ達は静止し、俺の近くまで寄ってくる。
「……色々と心配させないでくれ」
「ごめんね」
「ごめんなのじゃ」
2人は少し反省したようにそう謝ってくる。
「さすがに情報を言わな過ぎたね。ちょっと触ってみて」
「ん?ああ…」
ラウレーナは片腕の水魔装を解き、俺の前に腕を持ってきた。俺は言われた通りにそれを触る。
「な、何だこれ!?」
ラウレーナの腕はまるで少し硬めのスライムを触っているかのようにぶよぶよと柔らかかったのだ。骨が入っていないような感触である。
「新しいスキルの軟体だよ。身体を柔らかくすることが出来て、打撃系の攻撃に強くなるんだ。ただ、手に使うと物が持てないし、拳で殴っても威力がかなり減っちゃうんだよね」
「なるほど…あっ、硬くなった」
身体を柔らかくする代わりに、柔らかくしている間は立っているのが精一杯で走ったりなどはできないそうだ。でも部分的に柔らかくすることで動けないのはある程度緩和できるらしい。
でも、その理屈だと、走らない水の線の移動は軟体中でもできるのではないか?
「ラウレーナにはピッタリのスキルだと思うが、魔法の特訓をしてたんじゃないか?」
「えへへへ……」
ラウレーナは少し恥ずかしそうにそう笑う。
このスキルは武器や防具を使う俺とルシエルは使えない。軟体を使ったらそれらの重みでぶよっと潰れる。だが、ラウレーナは防具もほぼ無く、武器も使わない。また、【敏捷】がないから軟体して素早く動けないのはほとんどデメリットになっていない。
「この水の線についても詳しく聞きたいが、まずは落ちたワイバーンを片付けるぞ」
「うん!」
「そうじゃな!」
俺達は地上に落ちたワイバーン2体を狩るべく、地上に降りていった。
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