第351話 動き出す魔物と…

「さてっと…今日もワイバーンを狩りに行くか」


あれからも2日間狩りをして帰って来るという2泊3日の生活を繰り返し送っていた。3日おきに生活魔法を頼むことで屋台のおっちゃんとは仲良くなってきたくらいだ。

ちょうど1週間前にギルドにてザックスらと依頼の金は分配した。俺に渡されたのは大金貨8枚でこれは依頼と素材料の3分の1である。ザックスは約束通り俺に多く払ってくれたようだ。


また、そのついでにギルドであの半彩化の魔物について確認したが、情報は全くなかった。あれから誰も姿を見たこともなく、行方不明者が出たとかも無いそうだ。また、オーアントの姿も全く見えないらしい。きっと地中に隠れているだろうとのことだ。

蟻塚を作らず地中に隠れられたら探す手段はほぼ無いので、出てくるのを待つしかない。


「できるだけ強くならないとな」


俺はそう意気込んで街を出た。






「今日も頼んでいいか?」


「もちろんだ。良客にはこれくらいのサービスは当たり前だぜ」


帰ってきた俺はいつも通り屋台に寄っていた。


「しかし、こうして俺の屋台を使うようになって1ヶ月は経つんじゃないか?」


「40日は経ってるな」


ずっと同じルーティンを繰り返し、もうひと月以上が経過した。

でも俺のレベルはあれから3つしか上がっていない。最初は調子が良かったが、やはり段々と上がらなくなってきた。これはレベルアップにより必要経験値が多くなっただけなのか、同じ魔物を短期間に狩っているから上がりずらくなったのかは分からない。


「もしかすると、そろそろこんな生活はやめるかもな」


「良客が居なくなるのは残念だぜ」


「まあ、その時は普通に食いに来るだけだから」


ここに屋台では魔物の肉と旬の野菜の炒め物を出しているのだが、日によって仕入れる魔物の肉が違うため、味が毎回違うのだ。でもハズレの日があるわけでなく、肉に合わせて調理法や調味料なども少し変えているらしく、毎回ちゃんと美味いのだ。味が違うから飽きがこなくて通ってしまっているのだ。

その分屋台としては割高だが、高ランクでやらしてもらっている俺としてはその程度問題ない。


「お前に合わせて仕入れ量も変えてるからよろしくな」


「それは責任重大だな。任せておけ」


俺はそう言って屋台から離れてギルドへと向かう。ギルドへは帰ってきた時に顔を出すようにしている。慣れてほとんど魔法の痕跡がなく狩れたワイバーンを売るためもあるが、あの半彩化の魔物の情報が無いか聞くためでもある。



「…ん?」


ギルドに入った瞬間にいつもと少し雰囲気が違うことに気が付いた。


「どうかしたのか?」


「あっ、ヌルヴィスさん!」


俺はいつもよりも静かなギルドの中、受付に言って事情を聞くことにした。


「約1週間前からCランク未満のパーティが依頼から帰って来ないのが数件ありました。それは時々起こるので問題なかったのですが…」


低ランクの者達が調子に乗って森の奥に進んで魔物に殺されることは時々あることではある。

だが、受付の話し方的に話はそれだけに終わらないようだ。


「2日前には帰って来るはずのCランクパーティが2つほどギルドに顔を見せていません」


「っ!」


低ランクと比べ、それなりに生き残ってきたCランクパーティが別の依頼で同時に行方不明者になることはなかなか起きない。それもパーティ全員でだ。


「…ギルドはどのように対応するつもりだ?」


「2つのパーティは別の場所で行方不明者になったので、普通なら因果関係は無いと判断したでしょう。ですが、半彩化の魔物仕業だろうとギルド長が決定しました」


人にも卵を産めるという情報があったおかげでギルド長はこの判断をすぐに下してくれたようだ。


「しかし、何の情報も無い中で姿を見つけるのは困難なため、現状としては厳重警戒を発し、森の奥へ行くのは控えて欲しいとアナウンスするしかありません」


「……だよな」


冒険者にも生活がかかっているのだから依頼を受けるなとは言えない。特に低ランクの冒険者はその日の依頼で生活する者も少なくない。ギルドも慈善事業ではないから冒険者に金をばら蒔いて街に留まれとも言えない。

結局は誰かが襲われても生きて帰ってきて情報を届けるしかないのだ。


「ですので、ヌルヴィスさんも十分気を付けてください」


「ああ」


話は終わったので、俺はギルドから出てワイバーンの素材を売った。ワイバーンの素材はかなり重宝されるらしく、高く売れる。だから金は無駄に貯まっていく一方だ。




(とうとう動き出した……)


半彩化の魔物が動き出した。だが、今できることは変わらず姿を見つけた時に備えるくらいだ。だからやることとしてはレベル上げしかない。とはいえ、このままではほとんど上がらないだろう。危険を承知で2体同時に狩ってみるべきか?


なんて考えていたその時だった。




「あっ!ヌルヴィス!」

「主!」


「っ!!」


俺を呼ぶよく知った声が聞こえてきた。思い詰めていた俺にはその声が真っ暗の道を照らす眩い光に感じた。

1人ではどうしようもなく追い詰められていた時にこそ仲間の素晴らしさを感じてしまう。

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