第349話 地上戦

「ガアッ!」


ワイバーンは地面に当たる瞬間にひと鳴きすると、落下が一瞬止まる。そして、それからすぐ地面に落ちる。


「さすがにそのまま落ちて大ダメージとはいかないか」


ワイバーンの巨体なら地面に墜落するだけでそれなりのダメージがあっただろうが、そこまで上手くはいかないか。

また、片羽が折れても一瞬程度なら風を操れるなら落下中に攻撃しなくてよかった。


「さて…と」


地面に降りた俺は足場を消すと、ワイバーンと睨み合う。その目はさっきまでよりも殺気立っており、地面に落ちたからといって諦めている様子は全くない。


「暗がり、凍てつけ!」


俺は先手必勝とばかりに詠唱しながらワイバーンに向かって行く。


「ダークアイスサイズ!」


俺は走りながら魔法を放つ。しかし、その魔法は軽やかに後ろにジャンプしたワイバーンに避けられる。その一瞬の機動力は地面でも厄介だな。


「グアッ!」


「しっ…!」


ワイバーンは近付いた俺に噛み付いてくるが、ワイバーンの下をスライディングのように滑り込んで避ける。


「らあっ!!」


そして、そのまま滑りながらワイバーンの下から大鎌で斬りかかる。


「ガアアア!?」


(浅いっ!)


ワイバーンが痛みで暴れ出したので、俺はワイバーンの下から抜けて距離をとる。

また、ワイバーンの鱗は硬く、滑りながらという体勢の悪い状態では数cmの深さを斬るのが精一杯だった。


「だが、この大鎌は使いこなせてる」


闇身体強化や無属性付与をしていることもあり、この大鎌の性能を遺憾無く発揮でき、硬いワイバーンにダメージを与えられた。この調子ならしっかり振れればワイバーンの首を落とすのも可能だ。


「ガアッ!!」


ワイバーンは垂れ下がった片羽を引き摺りながら俺に向かってくる。


「凍てつき、暗がれ!」


俺もワイバーンに向かって行きながら詠唱を始める。


「グルガアァ!」


ワイバーンは無事な方の羽で俺を殴ってきた。俺はそれを大鎌を使って少し上に弾いて避ける。できれば斬ろうとしていたのだが、それは無理だった。

すると、今度は尻尾が俺に向かってくる。


「アイスダークサイズっ!」


俺は後ろに通り過ぎた羽に魔法を放ちながら目の前からやってきた尻尾に大鎌を振り下ろした。


「グギャアァァァ!!!?」


ワイバーンの絶叫が響く。ワイバーンは羽の真ん中には大きな切れ込みができ、尻尾は半分ほどから斬り落とされた。



「歩くのも少しキツそうだな」


ワイバーンは地面を歩く時は後ろ足と両翼を折り曲げで硬い部分を地面に付ける。だが、片方は折れ、片方は裂けたため、力が入らず上手く歩けていない。顔が地面に付きそうになっている。


空中ではまるで勝ち目がないと思わされたが、地面に下ろしたら変わったな。相手のホームグラウンドで戦わないというのがここまで大事だとはな。


「暗がれ!」


だが、俺はここで油断はしない。俺の防御力ならワイバーンにガブッと噛み付かれただけで下手したら噛みちぎられて即死だからな。


「ダークランス!」


「ガア……!?!」


斜め下から放たれたその魔法により、前のめりになっていたワイバーンの上体が浮く。そのことにより、ワイバーンは四つん這いで仰け反ったような体勢になる。


「はあっ!!」


俺は浮かび上がったワイバーンの下に入ると、首が地面に近付くのに合わせて大鎌を下から全力で振り上げる。


「ガアッ…」


そんな小さい鳴き声を最後にボトッとワイバーンの首が落ち、その体も力なく地面にべたんと倒れた。


「ふぅーー…」


俺は大きな息を吐くと、尻もちをついたかのように勢いよく座る。


「何とか勝てたーー!」


最初は厳しいかと思ったが、特に深い怪我をすることなく殺ることができた。


「ステータス」


俺は身体の調子に変化があったので、ステータスを表示する。


「やっぱり1レベル上がってる!」


アリ達のやつで余っていた経験値もあっただろうが、ワイバーン1体でレベルが1つ上がっていた。やはり、強敵と戦うのはレベル上げにいいのだろうな。


「さて、次をやるか」


今日の狩りがこの1体だけで終わりではない。俺はマジックポーチにワイバーンを仕舞い、魔力と闘力をポーションで回復させて闇魔法をストックする。そして、また魔力を回復すると、次のぼっちのワイバーン探しに向かった。

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