第348話 空中戦

「しっ!」


できるだけ静かにそして、速くワイバーンの後ろの死角からワイバーンまで接近する。


「ガアッ…?!」


(バレた!)


ワイバーンまで残り数メートルという場所で、ワイバーンに振り向れて気付かれた。だが、俺はこのまま向かっていく。


「はあっ!」


そして、大鎌を勢いよく振った。しかし、その大鎌は空を斬る。


「速っ?!」


ワイバーンが高速で動いて俺の大鎌を避けたのだ。


「ガアッ!!」


ワイバーンは旋回すると、俺に高速で向かってくる。このままだとワイバーンに轢かれることになる。左右に避けても大きな翼に当たるので、俺は上にジャンプして避ける。


「うぐっ…!?」


だが、上に避けた俺にワイバーンは通り過ぎながら長い尻尾を叩き付けてきた。大鎌でガードはしたが、踏ん張れない空中では為す術なく、俺は吹っ飛ぶ。


「グルガアァ!」


「くっ…!」


ワイバーンは鋭い牙が付いた口を開け、吹っ飛んだ俺を追ってくる。


(来るなら来てみろ!その首を落としてやる)


俺は大鎌を構えてワイバーンを迎え撃とうとする。


(ここっ!)


完璧なタイミングで俺は大鎌を振る。俺の大鎌がワイバーンの首元まで行った時だった。


「ガアッ」


「なっ…!?」


ワイバーンが物理法則を無視して急に静止すると、ふわっと後退した。その結果、俺の大鎌は再び空を斬ることになる。


「ガアッ!!」


「ぐぐっ…!」


そして、急加速したワイバーンはまた俺に向かって来た。何とか噛まれないように大鎌を横にして口を抑えるが、ワイバーンは俺を付けたまま斜め下に急降下する。


「ペッ!」


「こいつっ!!」


地面まで5メートルを切ったくらいでワイバーンは俺は離して空に戻る。スピードの付いている俺はこのままだと地面に叩き付けられることになる。足場の盾は足場としての強度しかないからこの勢いを止められるかは怪しい。それに、結局激突する対象が地面から盾に代わるだけだ。


「らあっ!」


俺は身体を捻ると、左手に持った大鎌の峰を地面に全力で叩き付けた。その威力は急降下しているエネルギーと比べてもかなり強い力だったため、俺は横に吹っ飛ぶ。



「ごほっ……。くそっ…」


地面を何度も転がり、俺は岩にぶつかってようやく止まった。地面を大鎌で叩き付けた左手や岩にぶつかった背中はそれなりに痛く、下手すると折れている。でもこれくらいなら中級ポーションで余裕で治るので、俺は中級ポーションを飲む。


「ワイバーンは空中での移動のために風を操るのか」


海竜が水を操ったように、ワイバーンは風を操る力があるようだ。今までワイバーンと空中で戦った者がほぼ居なかったからか、ギルドでもこの話は聞かなかった。

もしかすると、竜種にはこのような力があるのかもな。…いや、高ランクの魔物があるのかも。


「空中では相手にならんな…」


正直、空中を移動できる程度でワイバーンに対して空中で戦えると思っていたのは自惚れていた。俺には空中を本拠地とする高ランクの魔物と空で戦えるほどの機動力は無い。


「なら地面に叩き落としてやる」


いくら風を操ると言っても、そのご自慢の羽が無いと飛べないのは確認している。

普通のワイバーン狩りでは矢や魔法で大勢が空中のワイバーンにちょっかいをかけて、鬱陶しくなって地面に向かってきたところを武器か魔法で攻撃して、羽を傷付けて地面に落として狩るらしいからな。


「それと、魔法は使わないとダメだ」


魔法無しで空中でワイバーンと戦うのは無理だ。別にさっきの空中戦でも魔法は使わないつもりではなかったが、後手に回り続けたために魔法を使う余裕がなかった。



「よしっ!行くぜ!」


俺は再び足場を蹴って空中に上がっていく。もうワイバーンには見つかっているため、一気に空中に駆け上がる。


「ガアッ!!」


ワイバーンは空中に駆け上がる俺を見つけると、再び向かってくる。


「凍てつけ!」


俺は空中で足場に立って静止すると、魔法の詠唱を始める。


「アイスサイズ!」


羽に向かって回転させた魔法を放つが、横から縦に空中で体の向きを変えて避けられる。


「はあっ!」


そんなワイバーンに俺は大鎌を横に振って闇の斬撃を放つ。方向転換した後にすぐまた方向転換するのは難しいのか、避けきれずにワイバーンの羽に斬撃が当たる。だが、羽を支える骨であろう場所にあった斬撃ではあまりダメージはないようだ。


「闇れ」


もう1、2メートルまで近付いているワイバーンに俺はストックしていたダークサイズを放つ。それも斬撃と同じく、羽を支える骨にも当たるが、込められた魔力が違う。


べキッ!!


「ガアァァァァ!!!」


ワイバーンは片羽を支える骨がへし折れ、片羽が使えなくなった。そんなワイバーンは俺を捉えられず、俺の下を通って地面に落ちていく。

落ちているとはいえ、空中でワイバーンを追撃するのは危険と判断し、俺はワイバーンと同じようにまずは地面に降りる。

しかし、ワイバーンにとって1番重要であろう骨に当たったとはいえ、ほぼ最大魔力を込めたストックで骨1本折るのがやっとか。やはり、Aランクは防御力も伊達じゃないな。

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