第346話 ギルド長へ報告
「流石だな」
「伊達に長く居るだけじゃないからな」
俺達は街に帰り、その足でギルドへ行った。受付で女王アリの死骸の1部を見せて依頼の完了の報告をした後に、ギルド長に繋いでくれとザックスが言うと、すぐにギルド長室まで案内された。また、疾火気炎には専属の受付嬢がいるらしく、何かと疾火気炎が動きやすいようにサポートしてくれるそうだ。さすがAランクのベテランパーティだ。
とはいえ、一声かけただけで多忙であろうこの街のギルド長とすぐに面会できるのはザックス達がどれだけこのギルドに貢献してきたか、優れているかがよく分かる。
コンコンっ
「何だ?」
ギルド長室に案内してくれた受付嬢が分厚い扉をノックする。すると、中から渋いが、どこか力強い男の声が聞こえてくる。
「疾火気炎から話があると」
「そうか。通せ」
許可が出て受付嬢が重そうな扉を開いて、俺達を中に促す。
「お前らから俺に話とは珍しいじゃねーか」
(………あれがギルド長なのか?)
大きな机の前で書類を書いていたであろうギルド長は逆だった灰色の髪と長い髭が特徴で歳はもしかすると60歳以上かもしれない。
ただ、シャツの上からでもわかるほど筋肉かあり、座っていても大柄なザックスよりも一回りさらに大きく見える。
「ん?何だ?隠し子の報告か?」
「違うわ!それは仲間達にも言われたぞ!」
そんなギルド長は俺を見てザックスにそんなボケを言う。見るからに実力派のギルド長のようだが、絡みやすいタイプなのかもな。
「冗談だ。それにしてもそんな出来の良い若いのがこのギルドにいるなんて俺も知らなかったぞ」
「つい最近この街に来たそうだぜ。こいつが居なかったら俺は今回の依頼で命を落としていたかもしれねえ」
「「っ!」」
ザックスのその発言には俺たちを連れてきた疾火気炎専属の受付嬢だけでなく、ギルド長までも驚く。
「…何があった。詳しく話せ」
「もちろんだ」
俺達は大きめのソファに座り、あのアリの巣でどんな魔物と出会ったかを話す。
「半彩化した恐らく高ランクの知能が高い魔物か……」
話を聞き終えたギルド長は険しい顔をしてそう言う。
「そこらの冒険者が言ってきたら半分冗談で受け取るんだが、伝えてきたのがお前らだし、何よりも目の前に証拠もある。俺も何回か見てたことはあるが、俺はこの腕は彩化している魔物の腕に違いない」
ギルド長は俺が取り出したあの魔物の片腕を手に持って色んな角度で見ながらそう言う。やはり、証拠として持ってこれるものがあってよかった。
「正直、ギルドでできることは冒険者共に半彩化の目撃例で警戒を促すことと、高額の討伐依頼を出すことぐらいだ。空を飛ぶ以上、捜索して見つかる線も薄いからな」
「それでもギルドがその魔物を認識してるだけで助かるぜ」
何か不審な行方不明者が出た時にその半彩化した魔物が犯人の候補として上がるだけでも無対策とはかなり話は変わってくる。ギルドに認識して貰えたら早期発見ができるのだ。
「しかし、厄介なのは卵を産み付ける性質だ。俺の想像通りなら種族問わず、産み付けられた数だけそいつの子供が増え続けることになる。そうなったらそれこそギルドから所属冒険者全てに緊急依頼を出さないと対処できなくなるかもしれん」
ギルド長は小さい卵を持ち上げて眺めながらそう言う。
卵からあの半彩化程では無いにしても、兵隊アリくらいかそれよりも強い魔物が産まれてきたら量によってはこの街の存続に関わる。だからもしもの場合はこの街の冒険者全員で対処に当たらないといけない。
「ヌルヴィスって言ったな。お前はこの半彩化の魔物の強さをどう見る?そうだな……次にその魔物と出会った時にこいつら4人なら戦ったら勝てると思うか?」
「………」
俺は改めてあの魔物の強さとザックスらの強さを比べて考えてみる。
「勝ち目は薄いように感じる。彩化されたら勝ち目は無いと言っていい」
「ほう…?」
俺の答えにギルド長は興味深そうな顔をし、さらに質問を続ける。
「つまり、今回半彩化を追い込んだお前はザックスらよりも強いって言いたいんだな?」
「それは違う。今回この魔物は全く本気を出していなかった。それに、産まれたばかりというハンデもあった。今日、ザックス達が戦っていたら殺せていた。
だが、次に会った時ならハンデは無くなるから、ザックス達であっても本気でこられたらかなり厳しい戦いになる気がする。特に空からヒットアンドアウェイをされたらザックス達が勝つことはできない。それと、今日と違って地上ならもっと簡単に飛んで逃げられる」
「確かにその通りだ。負けないが、逃げられるから勝てないっていう事態になりかねないな」
まだ半彩化なら戦闘力的にはザックスらの方が上だ。だが、それでも空中を自由に移動する機動力が無いから追い詰めたとしてもまた逃げられてしまう可能性がある。そういった点でザックス達には勝ち目が薄い。
また、それに彩化されてしまうと、ミリーが魔法の連発を得意としていないから魔法戦では不利となる。
「その点お前はどうなんだ?」
「俺は空中を走る手段がある。少なくても逃げられる心配はザックス達よりは少ない」
機動力ではあの魔物に俺は負けてはいない。今回も地下に居なければ追うことはできていたのだ。
「なら、あの魔物を見つけたらお前に任せていいんだな?」
「ああ。俺に…いや、俺のパーティに任せろ」
俺だけでは勝てるか不安要素があるが、ラウレーナとルシエルが学校長との特訓から帰ってきたら勝てるはずだ。
「分かった。もし、その魔物が現れたら親玉はお前に任せるからな。その時はザックスらもサポートしてやってくれ」
「もちろんだぜ」
こうして、ギルド長との話し合いも終わった。とはいえ、俺達は誰かが半彩化を見つけるか、自ら姿を現すかを待たなければならない。
だが、いつかは必ず俺の前に姿を現す気がする。逃げる前の俺に指を指したのを見てそんな予感がする。
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