第345話 後処理

「さて、まずはアリの卵と幼虫共を潰さないといけないな」


ザックスがそう言い、俺達5人は少し穴を上がって卵や幼虫がいる部屋に行く。


「「「キィ…」」」


俺達をやってきた気配で餌が貰えると思ったのか、幼虫は口をパクパクさせる。あまり目は良くないようで、俺達をアリと勘違いしているようだ。1mほどの幼虫が這い寄ってきながら一斉に鳴いている様子は普通に気持ち悪い。


「しっ!」


俺達はそれぞれ別れて部屋の中のアリを片付けることにした。幼虫のぶよぶよの身体だろうと、俺の大鎌ならスパッと斬れるから感触が伝わらなくていい。



「……明らかに少ない」


また、部屋によっては幼虫や卵の数が少ないところがあった。普通ならこれから追加する予定だったと思うだけなのだが、俺はあの魔物の指示でアリ達が咥えて別の出入口から連れて行ったように思えてしまう。あの魔物に対して警戒し過ぎということはないだろう。




「さすがに全部は持って帰れないから、女王アリを第1優先にして余ったスペースに兵隊アリを入れていこう」


幼虫と卵を全て処理したら、次は死体の回収に取り掛かる。


「いや、待ってくれ。半緑化の魔物の片腕とかがあるからそれを最優先にして欲しい」


俺がそう言うと、全員が目を見開きながら俺の方を向いてくる。


「…か、片腕を斬り落としたのか?」


ザックスが代表して俺にそう聞いてくる。あ、そういえば言ってなかったし、あの場所がそこまで細かく見れないか。


「ああ。丸ごと右腕があるから半緑化しているのはギルドに証明できるかもな」


「よ…よくやった!!さすがヌルヴィスだ!どうやって逃げた魔物の脅威をギルドに伝えるかが問題だったが、片腕があれば十分だ!」


「あ、そこまでは考えてなかった」


ギルドに半彩化した魔物が現れた。だけど、それは俺しか見てないけど。と言ったところで信憑性は少し低い。だが、実際に緑色に染った腕を見せながらだと、格段に高くなる。


「その腕はどこにある?」


「あっちだ」


まずは俺はその腕と鉤爪を4人に見せることにした。



「…こんな硬いのをよく斬ったな」


「この染まり具合は確かに彩化だ」


「この鉤爪は俺の盾すら穿かれるかもしれんな…」


男組3人は腕や鉤爪を見ながら思い思いの感想を述べる。そんな中、ミリーだけが無言だったが、俺は内心ヒヤヒヤしていた。


「ねえ。この魔物もそうだけど、そこらのアリに魔法の痕跡があるけど、これが魔導具?かなり威力が強いみたいだけど、買った店を私にも紹介してくれない?」


(来たよ……)


この話題を俺は恐れていた。魔法職のミリーなら少なくてもアリ達を殺った闇魔法や雷魔法の痕跡は見つけれるだろうとは思っていた。一応明らかな痕跡となる氷魔法は使わなかったけど、まあバレるよな。


「使ったのは魔道国で買った魔導具だ。効果はいいが、使い捨てで使ったらバラバラに砕けるんだ。全部使ってやっとここまでできたんだ。

同じのは魔導具に行けば見つかると思う」


「魔導具かー。しばらく行ってないな。そこならこんな高性能の魔導具もあるんだね」


何とか誤魔化せたようで俺はほっとして胸を撫で下ろす。ミリーに魔導具に行かれたら嘘がバレるかもしれないが、その頃には俺はもうこの街には居ないと信じたい。


「でも、そんな魔導具は高かったんじゃない?」


「安くは無いな」


「何?なら今回の依頼料の分配時はヌルヴィスに多く払わないといけないな」


(何!?!)


話は変な方向に脱線してしまった。どうやって誤魔化そうかと考えるが……。



「…半分寄越せとは言わんが、少しお多めに渡してくれると助かる」


「任せろ!」


4人は俺の言葉に頷いて了承してくれた。

魔導具なんか使ってないから別に金は掛かってない。でも単身で奥にまで突っ込んだり、あの半彩化の魔物と戦ったのだから多めに貰うのは妥当だと思う。1番危険なことをやったのは間違いないんだからな。

まあ、これがラウレーナとルシエルらのパーティの時ならキツイ役目はその場によって変わるから一々今回はキツかったからもっと寄越せとは言わないけどな。こいつらとパーティを組むのはこれで最後だし、請求してもいいよね?


「じゃあ、この半彩化の素材はヌルヴィスのマジックポーチに保管してくれ」


「おう」


自分で獲得した素材なので、俺が責任を持って大事に入れておく。

その後は女王アリを少し解体して分けてそれぞれのマジックポーチに入れ、余った容量に兵隊アリを入れた。



「よし!帰るぞ!」


そして、俺達は街への帰還をした。まだ死体は多く残っているが、入らないのだから仕方がない。とはいえ、わざわざ往復するほど必要でもない。噂を聞き付けた小狡い冒険者が取りに来るかもしれないな。


ちなみに、俺に産み付けようとして失敗したあの卵は一応持ち帰っている。ただ、普通のアリの卵と区別するのはまず無理だろうとのことだ。産まれたてだったし、この孵るかどうかすら怪しいしな。


それと、巣は崩していかない。アリの唾液によって固められていて、崩すのもかなり大変なのだ。だから放置しておく。

ただ、ギルドに報告する時に巣の場所は記録されるそうなので、この穴を利用して巣を作られないかは一定の期間ごとに依頼で偵察されるから問題ない。むしろ、ここの巣を利用してくれた方が早期発見できるから楽なくらいだ。

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