第344話 次は必ず
「これで最後だ!!」
ザックスがそう叫びながらこの場にいる最後のアリを叩き潰す。
「さて、ヌルヴィスには色々と話を聞きたい訳だが……何でそんな悔しそうな顔をしているんだ?俺達には作戦を完璧に遂行してようにしか見えないぞ」
ザックスは遠くに横たわる首の無い女王アリ2体の死体を見ながらそう言う。
「…それよりもザックス達はどうやってここに来れたんだ?アリの量的に突入は無理だと思っていたぞ」
自分のことを話す前にザックスに話を振る。俺はあの逃がした魔物の説明する内容がまだ纏まっていないから後回しにしてしまった。
「あー、急にアリ達が森の奥に逃だしたんだが、ほんの1部だけアリの巣の中に突入して行ったんだわ。それで俺達は森の奥に逃げたアリよりもヌルヴィスが居るであろう巣の奥に向かっていった1部のアリ達を追ってここに来たって流れだ」
「………!」
「そんな目と口を開けてどうした?」
あの魔物が叫んだのはここにアリ達を呼ぶためだけではなかった…。あれは生き残っているアリを逃がすためでもあったのだ。
わざわざほとんどのアリを逃がしたところを見るに、あの魔物は俺達から逃げることについてその時点で考えていたということになる。また、戦力を温存したのだから、次の機会があるということにもなる。
「……俺がここに来てからのことを話す」
ザックス達の話を聞き終えたから次は俺の話をする。ただ、なんて話せばいいか結局わからなかったので、時系列順に1から説明することにする。
「まず、入ってすぐ女王アリが2体いた。その中の1体は腹が異様に膨らんでいて全く動いていなかった。そして、変な女王アリを庇うように普通の女王アリを含めて動いていた」
まずこの時点で色々とおかしいのだ。同じ巣に女王アリが2体いること、変な女王アリ、女王アリ同士で序列があるなどおかしな点は上げていけばキリがない。
「普通の女王アリの1体殺って、最後に変な女王アリを殺ろうとしたら腹を割いて二足歩行の魔物が出てきた」
「…それは俺らがここに来た時にヌルヴィスが戦っていた魔物か?少しだけ姿が見えたが…」
「多分その魔物で間違えない」
あの魔物もザックス達を見ていたし、ザックス達が気付いてもおかしくは無い。
「その魔物は半緑化していた。しかも知能が異様に高く、…魔導具の魔力を見て自分も魔法を使おうとして緑化が加速していた」
「「「「っ!?」」」」
さすがに俺が魔法を使ったのを見て、とは言えないので、少し誤魔化したけど意味合い的にはほとんど変わっていない。半彩化だけでも普通は恐ろしい魔物のはずなのに、その魔物が知能が高く、これから彩化する可能性が高いなどどんな悪夢だ。
「…その魔物の種類と強さは?」
「種類までは分からないけど、アリに近い虫系の魔物だとは思う。でも、ここのオーアントとは別種だ。それと、強さに関しては現時点でも最低でA-はある」
ミリーの質問に分かる範囲で答える。あの魔物の強さは確実にAランク帯以上なのは間違いない。あれが本気を出していたとは到底思えないのに、あの圧倒的な強さだったのだ。あれがBランクだとしたら俺は自分の冒険者ランクをBからCに下げてもらいたい。
「……何よりも恐ろしいのはあの魔物は俺に卵を産み付けようとしていた。だからあの魔物は他の生物に卵を強制的に産み付けて繁殖可能だと思う。
それにザックス達の言ったアリ達の動きの変化はそいつが大声で叫んだ後だった。きっとある程度魔物を操る力を持っていると思う。さすがに無条件で操れる訳では無いと思うけど」
ミリーの質問に答えた時点で絶句していた4人に追加で最悪な情報を付け足す。
「い、今すぐその魔物を追って討伐…!」
「あれは飛ぶし、ここのアリ達に時間を食われたからまず無理だ」
慌てて動こうとするミリーに俺は諭す。追うのもそうだが、隠れているのを後日見つけ出すのも不可能だろう。だって、あの魔物が地上にいるのか、地中にいるのか、果ては空中にいるのかすら俺達には分からないのだ。
「あんた…そんな冷静にっ?!」
ミリーが俺に食ってかかろうとしたが、俺の顔を見て言葉を止める。自分がどんな顔をしているか分からないが、思わず言葉を止めるほど険しい顔はしているのだろう。
また、俺はミリーのその態度を責めはしない。あんな魔物を逃がした俺が悪いのだから。
でも…俺が誰よりも奴を追いたいと思っている!逃がしたのは俺の責任だ!だが、どう考えてもそれは不可能なのだ…。
「…ヌルヴィスは悔しい思いをしているかもしれんが、これだけは言っておく」
ザックスは俺に向かって歩いて近付きながらそう言う。そして、俺の両肩に左右の手をドンッと乗せて話す。
「ヌルヴィスが無事でよかった!話を聞いただけで…いや、この場の惨状を見ただけでここでの戦闘が大変だったのは分かる。それに、俺達の想定を超える異常事態の連続だった中、よく戦い抜いた。更なる問題は生まれてしまったが、おかげで誰1人欠けることなく依頼は完遂できた。
ヌルヴィスがこの依頼を手伝ってくれなかったら俺達は壊滅していた可能性もあった。それにこの巣を放置していたらもっと悲惨な事になっていた。確かに今回は最高とは決して言えない結果かもしれない。だが、最高に限りなく近い結果をヌルヴィスは出してくれた!それを攻めるやつは俺が許さない!むしろ俺達はヌルヴィスに感謝しなければならない。本当にありがとう!!」
「全く持ってその通りだ。ありがとう」
「ザックスが正しいな。ありがとうな」
「さっきは責めるようなこと言ってごめん。ヌルヴィスのおかげで助かったわ。ありがとう」
ザックスに続いて他の3人も続いて俺に礼を言ってくる。
「そうか……。こっちこそありがとうな」
この巣からあの魔物を撃退出来ただけでも大きな成果ではあるんだよな。この巣であの魔物がぬくぬくと育っていた方がずっと危なかった。
そうだったと理解はしても、俺はあの魔物をここで仕留めたかった。
「それに悔しかったら次には必ず仕留めてくれ。絶対にあの魔物は再び姿を現すはずだ」
「っ!ああ…任せろ!!次は絶対に逃がさない!」
いつまでもくよくよしていても仕方がない。次に見つけたら必ず殺す。
もしかしたらその時は3対1になってるかもしれんが、今回は1対多だったのだから卑怯とは言わせない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます