第343話 結末
(こいつはアリじゃない!)
後ろに落ちた楕円の数センチの卵を見ながら、俺はそう思っていた。こんな同族では無い相手に卵を強制的に産みつける魔物はアリではない。仮に元がアリだとしても、変異などしてアリとは根本が異なる魔物である。
ちなみに、卵は俺に産めていないことを察したのか、産まれたばかりで卵の生成ができていないのか、3粒で止まった。
「キィ…!」
「しまっ…」
卵に気を取られていると、目の前に魔物がやってきていた。鉤爪が無くなった右拳で殴ってきたのを大鎌でガードすることはできた。
ドガンッ!
「かっほ………」
でも俺は思いっきりぶっ飛び、背中を壁に強打して膝をついた。また、打ち付けた背中だけでなく、大鎌を持っていた両手も拳を受け止めた代償に鈍痛がしている。これは骨が逝ったかもしれない。
「でも腹のが取れた」
怪我は負ったが、それでも卵を産み付ける細長い針が抜けたことが嬉しかった。
「「「キシャッ!!」」」
「ちっ…」
しかし、俺はその事に安堵している暇は無い。大量やってきたアリ達が俺に向かってきている。それに加えて依然として目の前の魔物は俺を見ている。
「暗がれ!ダークサイズ!」
俺は目の前の魔物から注意を逸らすことなく、すぐ横まで迫ってきているアリに魔法を放つ。
「ごくっ…!」
そして、すぐに魔力、闘力ポーション、さらに回復ポーションを取り出して飲み込む。
「しっ!」
痛みから開放された俺は再び目の前の魔物に向かっていく。
「キシャッ!!」
魔物は右拳や残っている左手の鉤爪で俺に攻撃してくるが、俺はそれを大鎌で受け流す。集中していれば、攻撃を何とか捌けるくらいにはこの魔物の動きには慣れてきた。
「うぐっ……」
だが、目の前の魔物に集中し過ぎて、後ろからやってきていた普通のアリに腰を噛まれた。噛んだアリは闇の斬撃ですぐに切断する。
「轟け、サンダーサイズ!」
俺は再び魔法で近くのアリを一掃する。
「はあっ!」
そして、目の前の魔物に斬りかかる。周りのアリに攻撃されないように闇の斬撃や魔法で気を付けながら俺は謎の魔物に斬りかかっていた。
その魔物は何かを観察するようにしていて、俺を本気で殺す気がないように思える。何度も攻撃はしてきているが、追い詰めようと連撃まではしてこない。
「おい!ヌルヴィス!大丈夫か!!」
「っ!」
一向に状況が好転しない中、この巣の奥底でザックスの声が聞こえてきた。
「キシャッ?」
目の前の魔物がやってきた新手のザックス達に顔を向ける。この魔物は常に油断している様子だが、ここまで明確な隙は初めてだ。
「はあっ!!!」
俺はこの隙を逃さない。魔物の右側から大鎌を全力で斬り上げる。
「キシャッ?!」
魔物は少し慌てたように右腕で大鎌を受け止めようとする。右手には鉤爪が付いてないから防ぐにはそうするしかないよな。
「キイエエエ?!!」
魔物が叫ぶ中、二の腕から斬られた腕が地面に落ちる。この魔物相手にいきなり首や胴体を斬れるとは思っていない。だから俺は最初からこの魔物の片腕を奪うつもりだった。そうすれば、俺は勝てなくてもザックス達が戦いやすくなる。
「キエェェ……」
魔物は右腕の傷口を左手で抑えながら俺の目を見詰めてくる。抑えていてもボタボタと鮮やかな緑色の体液が地面に落ちている。
この間にもザックス達はアリ達を殲滅しながら俺達の方へ向かってきている。ザックス達が来たら5人でこの魔物を殺る。
「キエッ!」
魔物は傷口から手を離し、俺に鉤爪を向けてひと鳴きする。アリの顔の表情なんて分からないが、少し笑っている気がする。
「なっ!」
魔物は羽を広げて飛ぶと、天井を左手の鉤爪で掘りながら上に向かって行く。
「逃げるのか!?」
まさか、ここでこの魔物が逃げ出すとは考えていなかった。硬い土の塊であろうが、鋭い鉤爪はどんどん掘っていく。このままでは地上まで逃げられる。
「逃がすか!シールド!」
俺は盾を蹴り、その穴を通ってその魔物を追おうとするが、穴に入る直前で天井の穴を見て冷静になる。
「……無理だ」
その穴は俺が通れるくらいの大きさはある。だが、大鎌を振る隙間は絶対にない。上からあの細長い針を突き出されたら避けるのは不可能だ。
この穴の中に入っても魔物に追いつくこともできず、俺は死ぬことになる。
「くそっ!!」
俺は天井を殴る。みすみす魔物を逃がしたのはこれが初めてだ。しかもあれは絶対に逃がしていいような魔物ではなかった。
「……憂さ晴らしだ」
あの魔物が消えたとしてもまだアリ達は残っているのだ。俺の気分がどうであれ、受けた依頼をちゃんと遂行しないといけない。
俺は闇身体強化と闇魔装と無属性付与を解くと、群がっているアリ達の殲滅に取り掛かった。
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