第340話 明日の作戦
「一旦引いて街まで帰ってもいいと思う。ギルドからの情報よりもアリの数が多いように感じるからな」
ミリーをずっと守っていたタンクのダンがまずそう言った。
「だが、今日だけでもかなりの数を減らせたわよ。このペースなら何日か続ければアリを撲滅できると思うわよ」
今日1番アリを殺したミリーがダンとは別の意見を言う。
「でもそれが何日続くか分からんだろ」
「それなら何日か期限を決めて減るかを確かめるのもいいかもしれんな」
ミリーの提案に対してのダンの反対意見を言い、ハインツがそれを聞いた上での折衷案を出す。
こんな感じでみんなが意見を出しながらこの依頼をどうするかを考えていた中、俺は皆とは少し違うことを考えていた。
(俺が1人なら突破できるか?)
俺が魔法を使えば、恐らくここにいる誰よりも効率よくアリを殺れる。だが、それは魔力の使用を解禁すればの話である。とはいえ、1人であの数を相手するのはさすがに無理と言わざるを得ない。
「ここは今日のMVPの意見を聞いてみないか?」
「…ん?」
話し合いは纏まってきたが、まだ結論は出ていなかった。そんな中で、ザックスは急に俺に話を振ってきた。確かにこの話し合いで俺はまだ一言も発していないな。
「………」
全員が俺に注目する中、俺はダメ元で自分の意見を言ってみることにした。
「多分地上に続くアリの巣穴は俺達が見つけたところだけでは無いと思う」
「そうだろうな」
あれだけのアリがいる巣で地上に続く出入口が1つな訳が無い。巣穴同士の距離はそれなりに離れているとは思うが、多分まだ他に数個あるはずだ。
「今日見つけた巣穴を今日のように疾火気炎が攻撃している間に、俺が1人で他の巣穴から女王アリを殺りに行くってのはどうだ?」
疾火気炎が今日のように攻撃を仕掛ければ、ほとんどのアリはそこに集中するはずだ。それなら、俺はそこまでのアリに見つかることなく、最下層の女王アリの元まで辿り着ける。
「それは無茶よ。賛成できないわ」
俺の意見を真っ先にミリーが反対する。
「そうだな。それは了承できない」
「1人に危険を負わせるのはダメだ」
続けてダンとハインツもミリー同様に俺の作戦を却下する。
まだ意見を言っていないリーダーのザックスに視線が集中するが、ザックスは顔を伏せて何も言わない。数十秒経ってザックスは顔を上げて俺を見る。
「できるのか?」
「ちょっと?!」
ザックスが肯定するようなことを言わなかったことで、ミリーが激しく反応するが、ザックスは俺を見たまま視線そらさない。
「疾火気炎がどれだけアリを引き付けてくれれるかでかなり変わるが、不可能では無いと思う。無属性魔法もあるからここの誰よりも手数はあるつもりだしな」
「よしっ!それなら明日は朝から巣穴を探して、午前中のうちに見つけたらその作戦でいこう!」
俺の言葉を聞いてザックスはそう皆に告げた。
「…本気か?」
ミリーが絶句したように何も言えない中、ハインツがザックスにそう問う。
「今日の戦いを見て、ヌルヴィスは俺達のパーティに入っても遜色ないレベルに戦えるほどの強さがあるのはわかったはずだ。そんなヌルヴィスが自分でいけるっていうならそれを信じてみようじゃないか。それに、今日と同じようなことを続けても上手くいかなそうというのはみんな分かっているだろ?それに街に近いこの巣を放置してギルドに帰るのもあまり良くない」
ザックスのその話を聞いて3人も渋々納得するように頷く。
「だが、命の危険を感じたら急いで逃げて来い。その判断をするのがどんなに早かったとしても俺達は文句を絶対に言わない。一番危険な役を買って出てる奴に文句を言うのは俺が許さない」
「分かった。ありがとな」
次の作戦が決まり、その日はもう少しアリの巣から離れて夜営をすることになった。ただ、夜営での見張りは明日のことを考えて俺は免除された。俺はそれに甘えてテントでゆっくり眠らせてもらった。
「さて、新しい巣を探すぞ」
次の日、朝早くから昨日攻撃したのとは違う他の巣を探した。
「すぐ見付かったな」
蟻塚はかなりの大きさがあるので、1時間も経たずに見つけることができた。その蟻塚は昨日の巣穴とは1、2kmは離れていると思う。
「じゃあ、俺達は前の巣に攻撃を仕掛けてくる。何度も言うが、絶対に無茶はするなよ」
「無理しなくていいからな」
「必ず生きて戻ってこい」
前の巣穴に向うザックス、ダン、ハインツに応援の言葉を貰う。
こんっ
最後にミリーも何か言うかと思ったが、額を軽く殴られた。
「頑張りなさいよ」
「ああ!」
4人はそれだけ言って昨日の巣穴に向かっいく。その道中でザックスがミリーにプレッシャーをかけるなよと言っているのが聞こえてきた。それを聞いてなんだが気持ちが解れる。
俺は4人を見送ってアリに見つからないように隠れながら合図を待つ。
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