第339話 撤退

「らあっ!」


俺は羽アリをどんどん斬り付けていく。空中の機動力で勝る分、そこまで対処が難しい相手では無い。


「おっと…!」


だが、尻に付いている針の毒だけが厄介だった。毒性の強さが分からない以上、それは絶対に食らうわけにはいかない。無いと信じたいが、即死級の毒の可能性もあるのだ。


「はあっ!あっ…!」


あまり考えずに振った大鎌によって羽アリの羽が斬れ、地面に落ちていく。


「スラッシュ!」


その地面に落ちた元羽アリに無属性魔法を放って確実に仕留める。ザックス達は地上で大量のアリを相手にしており、その中に急に毒のあるアリが混ざったら不味い。


「魔法の準備ができた!」


「「「っ!」」」


俺達3人はその合図でクレーター内から出ようとする。

しかし、それはできなかった。



「くそっ!」


俺を脅威として認識させすぎたのか、羽アリは俺が逃げようとすると、付いてきてしまう。このまま逃げると、ミリー達の元に羽アリが向かってしまうことになる。

また、ザックス達もアリと兵隊アリに囲まれて思うように動けないでいる。


「……撤退する!多少付いて来られてもいいからまずはこの場から逃げるぞ!」


「「了解!」」


ザックスは撤退を宣言する。俺とハインツはそれに了承し、3人はアリ達に目もくれず、クレーターから出ることだけを考える。

しかし、やっぱりザックスらはアリ達に囲まれてるから上手く逃げれない。


「よっ!」


それを見た俺は盾を何枚も蹴って高く跳ぶ。


「ザックス!ハインツ!高く跳べ!俺の使っている足場をクレーターの外まで繋げる!」


「「っ!」」


2人は指示に従って数mジャンプする。俺は自分の盾を一旦消す。


「サイズ!」


闘力が残り少ないため、巨大な丈夫な大鎌をクレーターの外まで橋のようにかける。2人は薄透明のそれに着地すると、走り出す。俺もそれに乗って走る。


「魔法だ!」


俺達3人がクレーターに出るところでザックスは魔法の指示を出す。もちろん、これは俺に当てたものでは無い。


「ファイアファイアインフェルノ!」


俺達がクレーターから出たタイミングでアリ達に火魔法が襲いかかる。クレーター内は業火に包まれ、アリ達の甲高い悲鳴のような音が聞こえてくる。

魔法名にファイアが2つあるのが気になったが、今はそんな暇は無い。


「このまま逃げるぞ!」


ザックスはそのまま走りながらクレーターから離れていく。敏捷の高いであろうハインツは魔法職のミリーを抱き抱えて走っている。


「ごくっ…」


俺は闘力ポーションを飲んで闘力切れで切れそうになっていた身体強化を維持しながらそれについて行く。




「ふぅ…ここまで来れば大丈夫だろう」


20分ほど走り続けて、やっと見通しの良い小川に出て俺達は腰を下ろした。


「いや……アリの数が思っていたよりも多かったし、何よりも種類も多かったな」


多分、あの魔法が消えてからまたアリ達は出て来ていただろう。マジで何匹居るんだよ。


「今回のMVPはヌルヴィスだな。誘ってよかったぞ。誘ってなかったらあの羽アリの対処はできなかった」


誘ってよかったと言って貰えるのはかなり嬉しいが、今は疲れてそれどころでは無い。羽アリとの戦いで尻の毒針を警戒して気を張っていたから疲れた。俺は大の字で川辺に横になっている。


「そうね。あれがこっちに向かってきたら不味かったわ。ありがとね」


「あ、ああ」


俺を誘うことについてザックスに反対していたミリーが素直にお礼を言ってきたので、少し戸惑ってしまう。


「しかし、あれは魔導具なのか?でも、あんな便利な魔導具は俺も聞いたことがないぞ。」


ザックスが俺の無属性魔法について聞いてくる。第1候補が魔力ではなく、魔導具なのが常識なのだ。普通は魔力持ちという発想がない。


「いや、魔力が感じられなかったからあれは魔法ではないわ」


「…!」


一瞬ドキッとした。やはり、ミリーは魔力感知を持っていた。仮に身体属性強化を使っていたら魔力を持っているとバレていたかもしれない。いや、何らかの魔導具の発する魔力と思われた可能性が高いか?でもそんな危険な真似はできないな。

ちなみに、俺の身体から魔力は感知できない。その理由は隠蔽で魔法職のステータスを隠している間は感知される魔力なども隠れているからだ。ただ、魔法などで外に魔力を出したらそれはバレる。


「あれは闘力で行うやつだろ」


「ああ、そうだ」


ハインツは俺の無属性魔法の要素を当てる。聞いてみると、闘力感知というスキルを取得しているそうだ。それでは隠しようがないし、別に無属性魔法に関してはそこまで隠さなくても良い。だから俺は素直にどんなスキルかを話した。



「さて、問題はあのアリをどうするかだ。想像以上に数が多いぞ」


雑談が終わって一息つくと、あの大量のアリをどうするかの会議が始まった。

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