第338話 応えたくなる
「数が多いな……」
兵隊アリも所詮攻撃手段がキバくらいしかないので、対処自体はそこまで難しくない。だが、普通のアリよりは少ないとはいえ、数が多いのだ。出てくるペースも落ちているが、その分以上に殺るペースも落ちているから兵隊アリは増える一方だ。
「ウザったいな!」
密集されると大鎌を振りにくくなる。闇身体強化を使って大鎌を振り回して頭だろうが一刀両断したくなってくる。だが、魔法使いが近くにいるこの場でやったらバレる可能性は高くてできない。
「やっと熱くなってきたぜ!」
「っ!?何だそれ?!」
ザックスが大声を発したので目を向けると、2本の大斧のヘッドが赤く染まっていた。今までは普通に黒っぽい色だったはずだ。
「離れろっ!」
俺はその言葉に素直に従う。目の前の兵隊アリを放置して兵隊アリの隙間を縫ってハインツと同じようにクレーターから出るくらいまで離れる。
すると、俺達が相手していた兵隊アリ達もより近くにいるザックスに集中して向かう。
「おっら!!」
ザックスは野太い雄叫びを上げながら大斧を地面に向かって振り下ろす。
ドンッ!
すると、ザックスの周りが爆発し、ミリーの最初の魔法に劣らないほどの轟音がクレーターに響く。その威力はクレーターの外の俺にまで地面の揺れを感じさせるほどだ。
また、大きな砂煙でザックスの姿は確認できなくなる。だが、気配感知でザックスがちゃんとその場に立っていることは確認できる。
「けほけほっ!!砂煙が…おえっ…!口にアリの体液が入っ…ぺっ!ぺっ!」
砂煙が消えると、兵隊アリの死体に埋め尽くされる中、意外と元気そうなザックスの姿が見えてくる。
ちなみに、大斧の色は元に戻り、白い蒸気のような煙を発している。
「しっ!」
「はあっ!」
俺とハインツはザックスから遠い位置にいる爆発のダメージが弱くてまだ生きている兵隊アリを殺りながらザックスに近付く。
「また出てこなくなったな」
「……あ、ああ」
兵隊アリの体液で全身が汚れているザックスの言葉に俺は遅れて頷く。
「だが、さすがに居なくなったとは考えにくい」
「アリの次に兵隊アリが出てきた時と全く同じ状況だからな…」
今もさっきのように一気に大量虐殺をした後にピタッと出てくるのが止まった。
「ってことはまた一段と厄介なのが出てくるってことか?」
「「……」」
ザックスのセリフに俺とハインツは無言で返す。みんなの想像は同じだったが、それは嫌だった。これ以上強力なアリが出てこられると、数にもよるが対処は難しくなる。
ボコッ!ボコボコボコ!
「「「っ!?」」」
いきなりクレーターに4つの穴が空いた。その穴の位置は2つの穴が並んでいて、その後ろに1つ、それのさらに後ろにもう1つだ。
「「「キシャキシャシャ」」」
前の2つから普通のアリが、その後ろから兵隊アリが穴から出てくる。
そして、1番後ろの穴から兵隊アリよりも一回り小さい羽の生えたアリ出てくる。
「まさかっ!」
最後尾のアリを見てザックスがそう叫ぶ。それと同時に羽アリが空を飛ぶ。
「まずい!空を飛ぶアリが現れたぞ!」
ザックスはそれを見て後ろにいるミリー達を心配する。だが、飛び立ったアリは5m弱ほどの高さまで飛ぶと、その場にホバリングするか、俺達に向かってくる。
この魔物達は目の前の敵を仕留めるというだけで、遠くにいる相手を先に殺そうとかいう頭は持ち合わせていないのかもしれない。
「まずいぞ!どうする!」
だからといって楽観視はできない。いつ羽アリ共がミリー達を標的にするか分からないのだ。飛ばれたら足止めも難しい。
既に羽アリは数十匹は出て来ている。それをミリーを守りながらタンクが相手はできないはずだ。
「羽アリは俺がやるから他は任せ…?」
「頼む!」
ザックスは知り合ったばかりの俺の提案に言葉を遮るほどの即答で乗ってくる。俺が出来なければ仲間が死ぬかもしれないのに、躊躇なく信じるとはな。
でもここまで信頼されるとそれに応えたくなる。
「シールド!」
俺は自分の周りに足場にする程度の強度の低い盾を20枚浮かべる。
「しっ…!」
俺は盾を蹴ってアリと兵隊アリの上を通り、向かって来ている羽アリに迫る。
「はあっ!」
1番手前の羽アリを大鎌で縦に真っ二つにする。飛ぶには普通の外骨格では重いからか、体がかなり脆い。普通のアリよりもこいつらは柔い。
「おっと…!」
だが、そのキバは兵隊アリのように硬そうで鋭い。でも飛行速度がそこまで速い訳では無い羽アリのキバくらいなら簡単に避けれる。
「っ!」
しけし、キバを避けた羽アリから危険感知が反応する。キバは避けたはずなのに、別の攻撃手段があるのか?と思いながらも危険感知に従って俺は一旦距離をとる。
「っ!羽アリの腹の先には針と毒があるぞ!」
何と、羽アリはアリよりも蜂に近く、腹の先に針と毒を持っていたのだ。
「攻撃と敏捷に全振りで防御力を犠牲にした羽アリか」
羽アリに少し親近感を抱きつつも、俺は羽アリの注意を俺に集中させるために羽アリに再び迫っていく。
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